令和7年度日本水産学会各賞受賞者の選考結果について
学会賞担当理事 益田玲爾
令和7年9月2日に開催した学会賞選考委員会は,15名の委員の参加を得て各賞受賞候補者の選考を行い,令和7年度第6回理事会(令和7年11月29日)において受賞者を決定した。
総評および各賞の選考経緯,ならびに受賞者,受賞業績題目および授賞理由は以下のとおりである。
令和7年度日本水産学会各賞選考の総評と選考経緯
学会賞選考委員会委員長 河村知彦
総評
令和7年度には,日本水産学会賞に1件,日本水産学会功績賞に1件,水産学進歩賞に5件,水産学奨励賞に6件,水産学技術賞に7件の推薦があった。分野別にみると,水産生物・増養殖関係12件,生命科学・生理関係0件,環境関係2件,水産化学・食品関係6件,漁業・資源関係0件,社会科学関係0件であった。
選考委員会では,「学会賞授賞規程」および「学会賞選考委員会内規」に基づき,推薦された各件について調査担当委員を設定し,推薦理由と推薦対象業績などに関する事前調査を行った。15名の委員全員が出席した第2回学会賞選考委員会(令和7年9月2日,オンライン)において,各調査担当委員からの口頭報告の後に審議を行い,委員全員の投票によって授賞候補者を選考した。選考された授賞候補者の研究は,いずれも水産学上の重要な課題における優れた業績であり,各賞の授賞規定に相応しい内容と評価された。本選考の結果が受賞者の研究の更なる進展の契機となるとともに,水産学の一層の発展に寄与することを願う。
日本水産学会賞,日本水産学会功績賞にはそれぞれ,授賞可能件数2件に対して1件しか推薦がなかったが,それ以外の賞には授賞可能件数を上回る数の推薦があり,特に,将来の水産学を背負って立つ若手研究者を対象とする水産学奨励賞および水産業の高度化に寄与する水産学技術賞には近年の推薦数と比較して多数の推薦があったことは大変喜ばしい。会員の皆様には,水産学の発展と普及のため,また,本学会のさらなる発展のためにも,引き続き受賞候補者の積極的な推薦をお願いしたい。
日本水産学会賞
選考経緯:授賞可能件数が2件以内のところ1件の推薦があった。調査結果の報告に基づく審議の後に無記名投票を行った結果,過半数の票を獲得したため,受賞候補として推薦することとなった。選出された1件は,養殖クルマエビ類の微生物感染症の防除に関して学術上きわめて優れた業績を上げ,水産学の発展に大きく寄与したものと評価された。
日本水産学会功績賞
選考経緯:授賞可能件数が2件以内のところ1件の推薦があった。調査結果の報告に基づく審議の後に無記名投票を行った結果,過半数の票を獲得したため,受賞候補として推薦することとなった。選出された1件は,水圏の化学物質が水産生物に与える影響に関する長年の研究により,環境問題の解決に資する顕著な成果を上げるとともに,その成果を学会や社会に発信することにより,水産学および水産業界に大きく貢献したものと評価された。
水産学進歩賞
選考経緯:授賞可能件数が4件以内のところ5件の推薦があった。調査結果の報告に基づく審議の後に4件以内連記の無記名投票を行った結果,過半数の票を獲得した4件を受賞候補として推薦することとなった。選出された4件はそれぞれ,受動的音響モニタリングと生理指標を用いた小型鯨類等の生態解明と環境影響評価,魚類の寄生虫病に関する研究,人為起源化学物質が沿岸域の水生生物群に及ぼす影響評価,海産微細藻類の発生機構に関する生理・生態学的研究,において優れた業績を上げ,いずれも水産学の発展に大きく貢献したものと評価された。
水産学奨励賞
選考経緯:授賞可能件数が4件以内のところ6件の推薦があった。調査結果の報告に基づく審議の後に4件以内連記の無記名投票を行った結果,5件が過半数の票を獲得した。授賞可能件数の制限を超えて推薦を行うか否かを審議した結果,今回は過半数の票を獲得した5件をすべて推薦することとなった。選出された5件はそれぞれ,サバ科魚類における新たな発生工学技術の構築とその応用,水産食品タンパク質に関する網羅的および数理科学的解析,セレノネインの生体抗酸化作用,餌料生物ワムシの生殖機能と環境応答の分子機構,飼育実験と情報工学的アプローチによる水産生物の行動生態の解明,に関する優れた研究であり,いずれも将来の発展が期待されるものと評価された。
水産学技術賞
選考経緯:授賞可能件数が3件以内のところ7件が推薦された。調査結果の報告に基づく審議の後に3件以内連記の無記名投票を行った結果,過半数の票を獲得したのは1件のみであった。この1件は受賞候補として推薦することとなったが,票が割れたためわずかに過半数に達しなかったものについて追加で推薦を行うか否かを審議した結果,過半数に達しなかった3件を加え,合計では授賞可能件数を超える4件を推薦することとなった。選出された4件はそれぞれ,センシング技術を活用した魚介類選別の自動化・見える化技術の開発,サバ類の品質劣化要因の解明と刺身用冷凍品の開発,代理親魚技術と選抜育種を融合した大型白子をもつ全雄トラフグの作出,汎用性の高いウナギ仔魚用飼料の開発,であり,いずれも水産業の発展に貢献するものと高く評価された。
各賞受賞者と授賞理由
日本水産学会賞
- 廣野育生氏
「クルマエビ類の微生物感染症防除法開発のための基礎的研究」
廣野氏は,養殖クルマエビ類に世界的被害をもたらした急性肝膵臓壊死症(AHPND)の原因細菌に対し,国際共同研究により迅速かつ高精度なPCR診断法を開発し,世界動物保健機関(WOAH)により公認診断法として採用された。この成果は親エビ・稚エビおよび養殖環境からの病原体の早期検出を可能とし,被害拡大防止と国際的な養殖産業の安定に大きく貢献した。また同氏はRNA干渉法を導入し,甲殻類における遺伝子機能解明や生体防御機構研究を推進,学術的基盤を拡充した。これまでに452編の論文を発表し,そのうち133編が甲殻類関連,h-indexは70を超えている。これらの業績は日本のみならず世界の水産業の発展に大きく寄与しており,日本水産学会賞を授与するにふさわしいものと評価された。
日本水産学会功績賞
- 大嶋雄治氏
「水圏の化学物質による水産生物への影響に関する研究」
大嶋氏は,水圏の化学物質が水産生物に与える影響について長年にわたり一貫して研究を行い,環境問題の解決に向けて顕著な成果を上げてきた。対象とした化学物質は,農薬,重油,環境ホルモン,フッ素系脂肪酸など幅広く,中でも環境ホルモンおよびマイクロプラスチックの影響については,先駆的な研究を行い,その成果を学会や社会に発信し,重要な提言を行ってきた。さらに,学会,行政機関に関連した社会活動を積極的に行い,地域社会に対する科学の普及と啓発にも努めるなど,水産学および水産業界に著しく貢献した。以上より,大嶋氏の顕著な功績は,日本水産学会功績賞を授与するにふさわしいものと評価された。
水産学進歩賞
- 木村里子氏
「受動的音響モニタリングと生理指標を用いた水圏動物の生態解明と環境影響評価」
木村氏は,人間活動の影響を強く受ける沿岸生態系の水圏動物,特に上位捕食者である小型鯨類等を対象に,受動的音響モニタリングやバイオロギングの手法を用いて対象動物の行動,生態,環境応答を多面的に解明するとともに,騒音等の人為的攪乱の影響評価に資する手法を確立してきた。また,テロメア長,酸化ストレス等の生理指標により,飼育環境や繁殖管理が水圏動物に与える影響を評価し,動物福祉の向上に寄与する研究を推進した。これらの成果は,野生下の環境影響評価等にも応用され,学術界のみならず行政や関係機関との連携を通じて,沿岸生態系の持続的な利用と保全に貢献している。以上により,水産学進歩賞を授与するにふさわしいものと評価された。 - 白樫 正氏
「魚類の寄生虫病に関する研究」
白樫氏は長年にわたり,水産魚類の病原体である寄生虫について,感染予防から制御法の開発,さらに分類学的研究に至るまで幅広く取り組んできた。主な成果として,寄生虫の生活環や感染経路の解明,各種寄生虫に対する感染対策技術の開発,さらに多くの寄生虫の新種記載に携わってきた。特に,養殖マグロの大量死を引き起こす住血吸虫に関しては,その感染に関与する中間宿主を明らかにするとともに,薬剤の有効性・投与法・安全性に関する体系的な試験を通じて,実用性を重視した研究を展開した。白樫氏のこれらの一連の成果は,将来の水産増養殖における寄生虫の感染予防と対策への道筋を整えたことから,水産学進歩賞を授与するにふさわしいものと評価された。 - 羽野健志氏
「人為起源化学物質が沿岸域の水生生物群に及ぼす影響評価に関する研究」
羽野氏は,人為起源化学物質による沿岸域の水生生物群への影響評価研究を精力的に進めてきた。特に,「次世代農薬」として注目を集めるネオニコチノイド系農薬群が海産甲殻類に及ぼす影響評価研究を先導的に進め,それらの一部がクルマエビに負の影響を与えている可能性を示した。クルマエビの国内漁獲量は直近30 年間で90%も減少しており,これらの成果はその原因を探る上で重要な示唆を与えた、と言える。また高病原性ウイルスを保有する天然クルマエビ稚エビの存在を確認し,これらの個体が実環境で農薬や高水温と同時複合的に曝されることでその影響が重篤化する可能性があることも示した。研究対象としてきた物質群は農薬類だけでなく,代替防汚物質,マイクロプラスチックなど多岐に及ぶ。一連の研究成果は,人為起源化学物質が沿岸生態系に及ぼす影響を読み解くものとして水産学(環境分野)の発展に大きく寄与しており,水産学進歩賞を授与するにふさわしいものと評価された。 - 山口晴生氏
「海産微細藻類の発生機構に関する生理・生態学的研究」
山口氏は,有害・有毒微細藻類の増殖に対する環境因子の影響を精密な培養試験とフィールド調査に基づいて明らかにし,ブルーム発生の水深,時期,海域を予想することを可能にした。また,多くの赤潮藻類がフォスファターゼとよばれる酵素を利用し,無機態リンに加えて有機態リンを直接分解してリン源として利用しているという新たな栄養獲得様式を明らかにした。沿岸汚濁海水中に含まれる有機態リンが赤潮の発生に寄与することを明らかにした点で,従来の赤潮発生機構やリンの循環メカニズムを刷新したと言える。これら一連の研究成果は,水産学,環境科学,生態学等の広い分野に波及効果をもたらすことが期待され,水産学進歩賞を授与するにふさわしいものと評価された。
水産学奨励賞
- 川村 亘氏
「サバ科魚類における新たな発生工学技術の構築とその応用」
クロマグロの完全養殖において親魚養成に最低3年という長期間を要することが大きな課題となっている。候補者は,クロマグロと近縁で,かつ初期の生残率が高く成熟体長の小さい宿主を探索した結果,本邦産スマと大西洋産スマの交雑個体が適していることを明らかにした。次に,宿主仔魚に対してクロマグロの精原細胞を移植し,飼育8ヶ月後に体重1㎏の宿主からクロマグロの精子を採取することに成功した。これは,2004年に発表されたヤマメにニジマスを産ませる代理親魚の技術が,ついに「マグロをサバに産ませる」最初のところに到達した記念すべき成果である。多くの試行錯誤によって導き出された優れた研究成果であり,水産学奨励賞を授与するにふさわしいものと評価された。 - 小南友里氏
「水産食品タンパク質に関する網羅的および数理科学的研究」
我が国では多種の水産物が消費されているが,それに含まれるタンパク質の詳細な情報は十分ではない。そして,水産物の主な可食部である筋組織には筋原線維タンパク質など様々なタンパク質が存在し,それらの変化は品質に影響を及ぼす。小南氏は,水産物の漁獲から保存そして加工に至る各段階におけるタンパク質の動態,すなわち,品質に影響を及ぼすタンパク質の分解,解離,凝集などの状況についてオミクス的分析手法を駆使し網羅的解析により明らかにした。さらに,タンパク質変化の動態をアミノ酸配列レベルで議論し,数理科学的な解析を通じ,特に,タンパク質分解の全容解明に取り組んだ。これらの成果は水産食品学分野におけるタンパク質科学の進展に貢献し,研究についても今後さらなる発展が期待されることから,水産学奨励賞を授与するにふさわしいものと評価された。 - 世古卓也氏
「セレノネインの生体抗酸化作用に関する研究」
セレノネインは,クロマグロの血液から発見されたセレン含有抗酸化物質である。世古氏は,セレノネインを分裂酵母培養系から高純度に大量精製する方法を確立し,質量分析用の標準物質を入手可能とした。さらに,セレノネインの微量栄養素としての生理的役割を解析し,食物から摂取されたセレノネインが生体・組織内に取り込まれ,赤血球などの細胞内で,ヒドロキシラジカルを標的とするラジカルスカベンジャーとして生体抗酸化作用を担うことを明らかにした。さらに,セレノネインは,活性中心に亜鉛や銅を有する金属酵素を阻害することなどを見いだした。以上のように,世古氏の研究は,成果の重要性および将来性から,水産学奨励賞を授与するにふさわしいものと評価された。 - 韓 程燕氏
「餌料生物ワムシの生殖機能と環境応答の分子機構について」
シオミズツボワムシは世界中の種苗生産現場で利用され,その安定供給は健苗性の高い仔稚魚の生産に不可欠である。韓氏は,このワムシの生殖機能と環境応答に関する分子機構を体系的に解明した。鉄・亜鉛などの微量元素や溶存酸素,代謝老廃物が生殖様式に及ぼす影響を分子レベルで明らかにし,系統差や環境制御の科学的基盤を提示した。これにより,耐久卵の計画的生産や耐久卵を利用したパッケージ化技術の開発に道を拓き,種苗生産の安定化に大きく貢献した。このように韓氏の研究は,水産増殖分野における応用と学術的展開が期待され,水産学奨励賞を授与するにふさわしいものと評価された。 - 宮島(多賀)悠子氏
「飼育実験と情報工学的アプローチによる水産生物の行動生態の解明」
クラゲの大量発生は海洋生態系に負の影響を与えるとみなされることが多いが,宮島(多賀)氏はクラゲが一部の魚類にとって有用な餌料生物となり,それらの魚類を種苗生産する際にクラゲを補助餌料として有効利用できる可能性を示した。また近年では,ビッグデータ解析や深層学習等の情報工学的アプローチを用いたり,水中ドローンで撮影した画像を解析して魚礁への魚類の蝟集効果を調べたりする等,最先端の技術を水産分野に導入して新たな研究を展開している。以上により,水産学奨励賞を授与するにふさわしいものと評価された。
水産学技術賞
- 木宮 隆氏・木村優輝氏
「センシング技術を活用した魚介類選別の自動化・見える化技術の開発」
水産業の流通現場では,品質に基づく魚介類の機械的な選別は困難とされ,各地域水産物のブランド化や輸出を目指すために,水産物品質の迅速な非破壊評価法の確立が強く求められていた。木宮,木村両氏は,近赤外分光法の応用研究により,魚介類の高付加価値要素として重要な脂の乗り,鮮度,生鮮魚・解凍魚の判別の評価の可能性を示し,水産加工場等での連続計測や船上等での個別計測に対応した装置を開発した。加えて,画像センシング技術を組み合わせた自動選別システムを開発し,流通現場における漁獲物情報の見える化の有効性を実証した。両氏の功績は,研究成果を社会実装に直結して応用する技術を開発した点で価値があり,水産業界が他産業に後れを取っている自動化やデータ活用に大きく道を切り拓くものである。以上により,水産学技術賞を授与するにふさわしいものと評価された。 - 橋本加奈子氏
「サバ類の品質劣化要因の解明と刺身用冷凍品の開発」
サバ類は日本の主要な漁獲物であり,多くの地域で漁獲されているが,品質劣化が生じやすい種としても知られている。橋本氏は,千葉県の産地市場に水揚げされた天然のマサバおよびゴマサバを対象に,魚種別に漁獲時期,鮮度,筋肉構造などの生理・生化学的性状を詳細に検討し,品質劣化の要因を明らかにした。一連の成果に基づき,鮮度が良い状態の魚肉では-20℃での凍結でも十分な品質が得られることを立証し,設備投資など現場への負担軽減にもつながる冷凍技術を確立するとともに,生食用冷凍サバ刺身の商品化を実現した。橋本氏の業績は,国際的に通用する大きな学術成果であるばかりでなく,昨今問題視されているアニサキス食中毒のリスク対策としても極めて有効であると考えられ,サバ類の付加価値化向上による地域水産業の活性化に大きく貢献するものであり,水産学技術賞を授与するにふさわしいものと評価された。 - 濱﨑将臣氏・吉川壮太氏
「代理親魚技術と選抜育種を融合した大型白子をもつ全雄トラフグの作出」
濱﨑氏は,代理親魚技術を用い,トラフグよりも成熟までの期間が短いクサフグの三倍体を宿主に,トラフグ雄の生殖細胞を移植し,雌宿主からY染色体を持つ卵を得ることに成功した。さらに,この卵がY染色体を持つ精子と受精することで,配偶子全てがY染色体をもつ精子となる超雄の生産に成功した。また,通常のトラフグは精巣が1~2月に発達するが,吉川氏は,養殖トラフグ集団の中で12月に精巣が発達する個体に着目し,ゲノム情報を元にゲノム選抜育種法によって,12月に精巣が発達する早熟系の作出に成功した。本研究では,これらの技術を融合し,早熟系の全雄種苗の生産に成功した。この様に本研究は科学的な裏付けを元に,技術展開し,社会貢献度の高い応用研究として,水産学技術賞を授与するにふさわしいものと評価された。 - 古板博文氏・神保忠雄氏・野村和晴氏
「汎用性の高いウナギ仔魚用飼料の開発」
ウナギ仔魚用飼料としては,主原料としてサメの卵が用いられていたが,安価な汎用性の高い飼料として,鶏卵黄,乳タンパク質,酵素処理魚粉を用いた飼料の開発に成功した。ただし,形態異常が発生するという現象があったが,核酸類の配合を改良することにより,この問題を克服した。この飼料によってウナギ仔魚飼育は大きく安定し,公設水試のみならず民間企業にも普及しており,水産学技術賞を授与するにふさわしいものと評価された。
令和8年度春季大会にて,授賞式(2026年3月27日),受賞者講演(3月27日:日本水産学会賞,3月28日:水産学進歩賞・水産学奨励賞,水産学技術賞)を予定しております。詳しくは令和8年度春季大会ウェブサイトにてご確認ください。


