ご 挨 拶

公益社団法人 日本水産学会

会長 東海 正

 日本水産学会は,水産に関して最も広い学問分野をカバーする学術団体であり,そこには,漁業,養殖,水産食品の製造加工のみならず,水生動植物,生物資源,海洋,環境,エネルギー,水圏生物化学,経済,水産教育など,水圏と人間が関わる様々な分野が含まれます。現在において,学問分野は専門化,細分化され,ひとつの学問を究めるために細分化された分野の中で,より専門的な深化が求められています。一方で,水産業や海洋関連産業,水産に関わる市民や社会は様々な課題を抱えており,そうした課題の解決のためには,より広い学問分野が学際的に連携して取り組んでいく必要があります。

 日本水産学会は,公益社団法人として,水産学に関する学理及びその応用の研究についての発表及び連絡,知識の交換,情報の提供等の事業を行い,水産学に関する研究の進歩普及を図り,もって学術の発展と科学技術の振興に寄与するとともに,人類福祉の向上に寄与することを目的としています。この目的のために,本会では,研究発表会及び学術講演会等を開催することで研究の推進を,また学会誌及び学術図書の刊行をすることで研究の普及を,さらには研究業績の表彰によって学術の発展と科学技術の振興に努めています。このように,本会は,水産に関わる諸課題の解決に向けて,多くの研究者が研究成果を社会に向けて発信し,広い分野の研究者が互いに交流し,連携していける場を提供していきます。特に,将来の水産学を支えてくれる学生の学会への参加,水産学のより幅広い発展への貢献が期待される若手会員と女性会員の運営への参画,また水産業や海洋関連産業の現場で課題を抱える会員と研究者の連携を進めていきたいと思います。

 最近では,新型コロナウイルス感染症の蔓延防止などに対応するために,本会の理事会や委員会など多くの会合がオンラインになりました。忙しい皆さんに出席していただきやすくするために,オンラインの会合は引き続き活用したいところです。特に,前期の理事会からは,総会をオンラインで開催することによって,春季大会とは切り離した時期に総会を開催することとなりました。これによって,事業年度終了の2月末から会計決算,監査,理事会開催などを以前に比べて時間的な余裕をもって終え,総会の開催に臨むことができるようになりました。しかしながら,実際にはオンラインであっても出席が少なく,委任状等の提出によって出席に代える正会員が多いのが現状です。本会が代議員制をとらずに正会員全員を社員とする総会を開催してきたことには,本会の運営により多くの正会員が関わることで,その活動の理解を深めて,より積極的な参加を期待しているからです。今後も,より多くの正会員が本会の運営に理解を深めるとともに,積極的に関わってもらうための道筋を模索していきたいと考えております。

 大会の開催についても,新型コロナウイルス感染症対策としてオンラインでの開催を,令和3年度の春季大会から初め,令和4年度の春季大会も継続してきました。しかしながら,大会や研究集会において研究内容の議論を深め,また広く会員をつなげていくには,オンラインでの発表と質疑応答だけでは十分ではありません。新しい研究のアイデアや連携の創出のためには,やはり対面による意見交換が必要に思われます。今年度の秋季大会からは対面での開催が検討されています。ワクチン接種が進み,様々な社会活動が正常化しようとする中では,必要な感染症対策をとりながら,大会を含め,地方での例会や研究集会でも対面での開催を模索していくべきと考えています。一方で,オンラインでのミーティングやウェビナーが広く普及し,多くの場面で活用されています。シンポジウムや講演会など、研究の成果をより広く社会に普及する活動においては,ひとりでも多くの人が参加できるようにオンラインやハイブリッドでの開催も大いに検討してもらいたいと思います。

 本会の英文誌であるFisheries ScienceのImpact Factor(IF)は,2019年には1.173となり,2020年には1.617と順調に伸び,2021年には2.148と念願であったIF2を超えるまで至りました(日水誌の2021年のIFは0.218)。また,2019年度における投稿規程の改正により会員のFisheries Science掲載料を引き下げました。これによって,英文誌への投稿も堅調であり,このコロナ禍においても順調に刊行できています。一方で,近年,オープンジャーナルが躍進を遂げるとともに,オープンサイエンスやオープンデータの考え方も広がってきました。また,最近では,より評価の高い学術雑誌での投稿論文の掲載を求めて,倫理的に問題のある2重投稿が行われることや,研究不正(データの捏造,改ざんあるいは盗用)を含む原稿が投稿されることが問題となっています。本会でもそうしたオープンジャーナルやオープンサイエンスなどの時代の変化に対応するとともに,研究成果の公表における出版の在り方とそれに関連する事柄についても検討していくべきだと思います。特に,研究不正など倫理面についてはしっかりと対応していく必要があります。

 本会は2011年2月に公益法人認定を受けてから,11年が過ぎました。会員の減少を抑えるために,会費や大会参加費の検討を引き続き行うとともに,運営業務の負担を減らすための見直しも必要になると思われます。学会の事務においても,従前は書類による提出を求めていたものを,法令上で可能なものについては押印を廃止するなどして,提出や保存,管理を容易にできるように電子化を進めていく所存です。

 本会は1932年に設立されて,今年度2022年度が創立90周年に該当します。すでに5年前の2017年に国際シンポジウムを含む創立85周年記念の事業を開催していることから,今年度は特別なイベントは行わないこととなっています。今後は,10年後の創立100周年記念事業に向けて準備を始めることになります。

 様々に情勢が変化する中で,事業の見直しや運営の改善,新たなチャレンジも留まることなく進める必要があります。今期の理事会では,“変わらないことのリスク”を考えた上で,時代の変化に取り残されないように,“変わっていくこと”,“変えていくこと”に取り組んでいきたいと思います。

 皆様のご協力をよろしくお願いいたします。