日本水産学会 論文賞受賞論文
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令和5年度日本水産学会論文賞受賞論文
公益社団法人日本水産学会 編集委員会
委員長 岡田 茂
【総評】 日本水産学会では,毎年 Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から,特に優れたものを日本水産学会論文賞の受賞論文として表彰している。本年度も,2023年に Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された論文,および過去6年間に出版され被引用数の多かった論文の中から授賞候補論文を選抜した。
まず2023年に掲載された論文からの選抜では,第一次選考において編集委員を漁業,生物,増養殖,環境,化学・生化学,利用・加工,社会科学の7分野に分け,各分野における論文数の20%に相当する優秀な論文を選抜した。選抜にあたっては内容の新規性,論文の完成度,社会的な影響力,今後の研究の方向性に与える影響など,多様な視点から評価を行った。次に第二次選考では,編集委員全員により,第一次選考で選ばれた論文に対し投票を行った。最後に,得票数が上位のものから授賞に値するかどうかの判定を行い,下記のとおり5編(1~5)の論文(掲載総数のおよそ5%)を選出した。選考の過程を通じ,各編集委員の専門的な識見に基づいて,論文賞の目的に合致する優れた論文が選抜されたものと考えている。なお,選に漏れた論文の中にも社会的に重要性の高い内容のものや,研究の新たな展開に資すると思われるものも少なくなかった。今後も我が国の高品質な水産学の研究成果が,継続的に発信されていくことに期待したい。
一方,過去6年間における被引用数が特に多かった論文の功績表彰については,下記の2編の論文(6,7)を選定した。授賞候補論文は被引用回数の多かった順に,ニホンウナギの環境DNAの安定性と水温の関係性に関するもの,次いで,養殖バナメイ代替飼料としての細菌由来タンパク質の評価に関するものである。いずれの論文も掲載後に安定して引用されてきており,Fisheries Science 誌の国際的な認知度を向上させる点で貢献度が大きいと考えられた。
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1.Fisheries Science 89巻2号:203-214 (2023)
(栄養塩・餌料環境に依存したアサリの分布:アサリ安定同位体比がアサリの生産性指標となり得る可能性)
内田基晴,石樋由香,渡部諭史,辻野 睦,手塚尚明,高田宣武,丹羽健太郎
https://doi.org/10.1007/s12562-022-01663-5
【要旨】国内20漁場のアサリ(2013年,2014年産)の安定同位体比(δ15N,δ13C)を調べた結果,それらの値が漁場の栄養塩・餌料環境指標(T–N,クロロフィルa量)と正の相関を示した。さらに,各漁場のアサリの5年平均生産量は,漁場の栄養塩・餌料関連指標(5年平均T–N,同クロロフィルa量,アサリδ15N,同δ13C)と正相関し,餌の量との関係性が強いことが示された。瀬戸内海の全ての漁場では,栄養塩・餌料関連指標,アサリ生産量ともに小さく,貧栄養・貧餌料化によるアサリ生産量の低迷が示唆された。
【推薦理由】アサリ資源の減少は我が国内の異なる地域で同時多発的に起こっており,その原因解明は水産上,大変重要な課題である。国内の広範囲にわたりアサリを採集し,減少しているアサリ生産量と栄養塩・餌料環境の関連性を安定同位体比から明瞭に示し,貧栄養化によるアサリ資源の減少を科学的に立証した論文である。合理性と説得力があり,生産性の予測や貧栄養化および資源低下の防除策の開発にもつながる成果として高く評価できる。
2.Fisheries Science 89巻5号:573-593 (2023)
(エコパスモデルにより推定した京都府沿岸域の漁業生態系に対するレジームシフトの影響)
井上 博,亘 真吾,澤田英樹,Edouard Lavergne,山下 洋
https://doi.org/10.1007/s12562-023-01691-9
【要旨】京都府沿岸域を対象に寒冷/温暖レジーム期,漁業構造が異なる1985年と2013年のエコパスモデルを構築した。両期間で複数の生態系指標値を比較し,生態系構造の変化や生態系に対する漁業の影響を評価した。漁獲物の基礎生産要求量は1985年の方が高く,マイワシの影響の大きさを反映していた。漁獲物の平均栄養段階や雑食度指数は,温暖期に食物網構造の安定性が高まったことを示唆した。漁業の持続性を示すPsust解析では,定置網が主体の2013年の漁業構造が,まき網と定置網が主体であった1985年より持続的な漁業に貢献していることが示された。
【推薦理由】エコパスモデルを用いてレジームシフトが漁業生態系に及ぼす影響を検討した論文である。環境要因と漁法の違いが,生態系内の漁獲物の生物量の違いに与える影響を包括的に解析した論文として高く評価できるのみならず,京都府沿岸を対象としながらも,当該地域の知見に留まることなく汎用性の高い成果を提示しており,日本から発信するモデルケースとして非常に貴重である。さらには本モデルにより,持続的な漁業への貢献についてまで言及している点も評価出来る。
3.Fisheries Science 89巻5号:687–698 (2023)
(海産回遊魚サンマにおけるDHA合成酵素の機能解析:サンマはDHAを自ら合成できる)
松下芳之,壁谷尚樹,川村 亘,芳賀 穣,佐藤秀一,吉崎悟朗
https://doi.org/10.1007/s12562-023-01710-9
【要旨】サンマの豊富な脂質にはドコサヘキサエン酸(DHA)が大量に含まれている。海産魚は一般にDHAを合成できず,餌からの摂取に依存していると考えられてきた。サンマもまたDHAを合成できず,その豊富なDHAは全て餌に由来するのだろうか。我々は本種のDHA合成能を明らかにするため,脂肪酸不飽和化酵素および鎖長延長酵素の機能解析を行った。その結果,サンマはドコサペンタエン酸から直接DHAを合成するΔ4不飽和化酵素をはじめ,α–リノレン酸からのDHA合成に必要な酵素機能のすべてを具えていることが明らかになった。
【推薦理由】ドコサヘキサエン酸 (DHA)などの長鎖多価不飽和脂肪酸(LC-PUFA)は,多くの海産魚において成長などに重要であるが,生合成遺伝子を失っているために自身で生合成は出来ず,餌から摂取しているとされていた。本論文ではLC-PUFAを多く含むサンマが内在性の酵素によってそれらを生合成している可能性を検証し,生合成経路に含まれる3つの酵素遺伝子をサンマから同定するとともに,それらが実際にLC-PUFA合成活性を持つことを組み換え体を用いて実験的に証明した。遺伝子の探索から機能解析までを明確なデータでまとめ,定説を覆した点が高く評価できる。また,サンマがなぜLC-PUFA合成酵素を有しているかについての進化学的,生理学的考察も秀逸である。
4.日本水産学会誌 89巻3号:264–275 (2023)
中村智幸, 関根信太郎
https://doi.org/10.2331/suisan.22-00053
【要旨】日本の内水面の漁業協同組合(以降,組合)における水産資源の増殖経費の実態を理解するため,2010,2017事業年度の全国の組合の業務報告書の記載内容を解析した。総支出額に占める総増殖経費(義務増殖経費と自主増殖経費の合計)の割合の平均値は2010年に35.8%,2017年に35.2%,総支出額に占める義務増殖経費の割合の平均値は2010年に27.6%,2017年に23.6%であった。組合は平均で義務増殖量(目標増殖量)の2010年に1.8倍,2017年に1.7倍の金額分の増殖を行っていた。
【推薦理由】本論文は,内水面漁業に関する第五種協働漁業権に付随する水産動植物の増殖の義務について,漁協経営の観点から現状を分析し,今後の持続的内水面漁業にむけてのいくつかの提言を取りまとめたものである。一般的には広くは知られていない,この増殖の義務について取り上げたことは,遊漁者や近隣住民からの漁協活動への理解を進めるためにも重要であると言える。主要6魚種についての現状分析では,いずれの漁協も増殖行為の実施に努めていることが示された一方,人工種苗生産が不確定なウナギやフナでは,放流種苗の確保が今後の課題であることが指摘されている。また,今後の持続的内水面漁業の発展には増殖は不可欠であるものの,大規模気候変動や災害リスクが高まる中,増殖費用の負担や放流量等の算出には,漁協経営の持続性を十分に踏まえるべきとする重要な示唆が含まれている。
論文自体の完成度も申し分なく,内水面全般を対象にしているため,今後,内水面の漁場管理を扱った論文において,広く引用されることが期待される。
5.日本水産学会誌 89巻4号:330–337 (2023)
門田 立, 八谷光介, 吉村 拓, 邵 花梅, 清本節夫
https://doi.org/10.2331/suisan.22-00054
【要旨】長崎県野母町地先の藻場の変化を把握するため,2010年から2019年にかけて海藻と水温のモニタリングを行った。調査開始時はクロメ,ノコギリモク及びアントクメなどの大型海藻が優占したが,2013年12月までにクロメとノコギリモクが消失した。アントクメは2016年に急激に減少し,それ以降,小型海藻が優占する藻場となった。16年は春の平均水温が最も高く,アントクメには魚類の食痕があったことから,水温上昇に伴う魚類の採食圧とアントクメの生産力のバランスの変化がアントクメの衰退要因になった可能性がある。
【推薦理由】10年間という長期にわたる継続的な調査により,藻場の変化を捉えた論文である。海水温上昇や食害などの影響を検討しつつ,大型海藻藻場から小型海藻藻場への変化が生じていることを明らかにした貴重な報告であり,論文としての完成度も高い。また,長崎県という特定の地域の藻場についての報告ではあるが,環境変化により分布特性が変化しつつある海域であるため,その知見は長崎県にとどまらず重要な情報である。
6.Fisheries Science 85巻1号:147–155 (2019)
(バナメイ用飼料における魚粉代替原料としての単細胞タンパク質の評価)
Ali Hamidoghli, Hyeonho Yun, Seonghun Won, SuKyung Kim, Nathaniel W. Farris, Sungchul C. Bai
https://doi.org/10.1007/s12562-018-1275-5
【要旨】バナメイ用飼料において,細菌由来タンパク質 PROTIDE(PRO)による至適魚粉代替率を検討した。PROによる魚粉代替率を0–40%まで5段階に調整した飼料を,平均体重0.15 gの稚エビに9週間給与した。終了時体重,増重率,増肉計数は,代替率0および10%区が,30および40%区よりも有意に優れた。筋肉および全魚体のタンパク質含量は,飼料中 PRO含量の増加にともない上昇した。バナメイ用飼料におけるPROの至適魚粉代替率は,アミノ酸を補足しない場合には10–20%であると考えられた。
【推薦理由】本論文の過去6年間における被引用件数は授賞対象論文の中で2位であったが,1位とは僅差であり,かつ,掲載年から比較的時間が経過しているにも係わらず引用数が多かったため,論文賞授賞規程ならびに日本水産学会論文賞選考についての申合せ事項により,選定したものである。
7.Fisheries Science 86巻3号:465–471 (2020)
The effect of temperature on environmental DNA degradation of Japanese eel
(ニホンウナギの環境DNAの分解率に及ぼす水温の影響)
笠井亮秀,高田真悟,山崎 彩,益田玲爾,山中裕樹
https://doi.org/10.1007/s12562-020-01409-1
【要旨】環境DNAは希少種の検出に有効で便利な手法である。本研究では,水産上重要であり絶滅危惧種でもあるニホンウナギに特異的なプライマーセットを開発し,環境DNAの減衰率を求める実験を行った。ウナギを10–30℃の5つの水温区に保った水槽に入れて飼育したのち,水槽から水を取り出し6日間保管した。その間,毎日環境DNA濃度を測定した。その結果,環境DNA濃度の減衰率kは水温Tと有意な正の相関を示した(k=0.02T+0.18)。この結果は,将来のフィールドデータの解釈に役立つであろう。
【推薦理由】本論文は過去6年間において,被引用件数が授賞対象論文の中で最も多かったため,論文賞授賞規程ならびに日本水産学会論文賞選考についての申合せ事項により,選定したものである。
令和4年度日本水産学会論文賞受賞論文
公益社団法人日本水産学会 編集委員会
委員長 岡田 茂
【総評】 日本水産学会では,毎年 Fisheries Science と日本水産学会誌に掲載された報文の中から,特に優れたものを日本水産学会論文賞の受賞論文として表彰している。本年度も,2022年に Fisheries Science と日本水産学会誌に掲載された論文,および過去6年間に出版され被引用数の多かった論文について選考を行った。
2022年掲載論文からの選考では,まず編集委員を漁業,生物,増養殖,環境,化学・生化学,利用・加工,社会科学の7分野に分け,各分野に該当する論文の20%に当たる数を,第一次候補論文として選抜した。選抜に際しては,内容の新規性,論文の完成度,社会的な影響力,今後の研究の方向性に与える影響など,多様な視点から評価を行った。次に第一次候補論文につき,編集委員全員の投票結果に基づき,得票数が上位のものから授賞に値するかどうかの判定を行った。授賞数としては掲載論文総数の5%が目安であり,今年度は5編となるが,第4位の論文(2編)と第6位(2編)の論文の得票数の差は1票と僅差であること,また,同点6位の2編は,論文数が少ない分野の論文であることから,それらを顕彰することで当該分野からの当学会誌への投稿が活性化されることを期待し,下記のとおり7編の論文(総数98件のおよそ7.1%)を選出した。各編集委員の専門的な識見に基づき,論文賞の目的に合致する優れた論文が選考されたものと考えている。なお,今回選に漏れた論文の中にも,社会的に重要性の高い内容のものや,当該分野の研究の新たな展開に資すると思われるものが少なからずあった。今後もFisheries Scienceおよび日本水産学会誌が,我が国における高水準の水産学の研究成果を発信する場となることを期待したい。
一方,過去6年間における被引用数が特に多かった論文の顕彰については,過去に本賞を受賞済みの論文と科研費による依頼総説は対象外として審議を行った。論文審査を担当したエディターの評価も加味した結果,高品質で突出した被引用件数を獲得した論文はないと判断し,今年度は授賞を見送った。
(以下,授賞論文を発行順に示す)
1.Fisheries Science 88巻1号:1–13 (2022)
(ベトナムのエビ養殖を対象としたGISと機械学習によるメコン川東岸のエビ養殖の魚病の予測)
Nguyen Minh Khiem,高橋勇樹,安間洋樹,Dang Thi Hoang Oanh,Tran Ngoc Hai,Vu Ngoc Ut,木村暢夫
https://doi.org/10.1007/s12562-021-01577-8
【要旨】本研究では,地理情報システム(GIS)と機械学習を用いることで,ベトナム,メコン川東岸のエビ養殖における,3種の魚病の発生リスクを予測した。まず,複数の機械学習モデルを比較し,最も精度の高かったニューラルネットワークモデルを用いることとした。モデルにより発生リスクをマッピングしたところ,メコン川の下流域で魚病リスクが高いことが分かった。これは,メコン川の下流域の養殖池では使用する水を共有しており,魚病が伝搬しやすかったためと考える。本研究の結果は,エビ養殖における魚病のリスク管理への活用が期待される。
【受賞理由】養殖業におけるリスク管理への適用を目指し,地理情報システムと機械学習から魚病発生リスクを予測する技術を開発している。今後,当該分野での良い手本となる先行研究であり,多くの引用も期待される。
2.Fisheries Science 88巻1号:191–202 (2022)
Evaluating the impact of COVID-19 on ex-vessel prices using time-series analysis
(時系列分析による新型コロナウイルス感染症の産地魚価への影響評価)
阿部景太,石村学志,馬場真哉,安井翔太,中村洸介
https://doi.org/10.1007/s12562-021-01574-x
【要旨】コロナウイルス感染症の拡大とロックダウン措置は魚価の低迷を招いた。具体的な対策には影響を受けた魚種とその程度を定量的に評価することが重要だが,現場では単純な前年同月比が用いられている。本研究では,時系列解析による予測を反実仮想として影響を評価する方法を提案する。分析の結果,魚種には負の影響が大小により2種類に分けられることがわかった。大きな負の影響を受けた魚種は,単価が12.65-14.64%下落した。定量的な推定によって政策立案者はより具体的かつ効果的な支援策を実施することが可能となると期待される。
【受賞理由】本研究は,①結果,②手法の先進性,③データの価値の提示,という3つの観点から高く評価できる。第一に,COVID-19による我が国の水産物価格への影響を初めて定量的に明らかにした。第二に,使用している手法が先端的であり,我が国の水産物市場分析のフロンティアを前に進めたといえる。第三に,国の水産統計がどんどん縮小されていることに鑑み,日別データがあればこのような分析ができることを示した点を高く評価した。
3.Fisheries Science 88巻2号:285–298 (2022)
(マダコ用シェルターの適正間隙及び適正配置方法の検討)
鈴村優太,松原圭史,森井俊三,阿部正美,グレドル・イアン,西川正純,片山亜優,西谷 豪,大河原遊,木村理久,秋山信彦
https://doi.org/10.1007/s12562-022-01582-5
【要旨】複数のマダコを飼育するには適切なシェルターが必要であると考えられる。本研究では,PVC板を組み合わせてシェルターを作成し,マダコに適した板の向きと板の隙間の幅を調べた。その結果,隙間の数が多いほどシェルターを利用する個体数は増加した。またシェルターの板の向きは横に配置した場合よりも縦に配置した場合をマダコは好んだ。次に板の隙間の幅が異なるシェルターを設置すると,マダコは湿重量に応じた幅を選択した。よって,PVC板を用いたタコのシェルターは飼育下でマダコを複数収容するために有用であると結論付けた。
【受賞理由】これまで困難であったマダコ養殖における「共食い」の問題解決を, 具体的かつ画期的な方法で提示している論文で,熟考された研究手法が用いられている。マダコの需要は高いものの,養殖技術は未だに確立していない。本研究はマダコ養殖を実現する上で重要な知見となる点で高く評価される。
4.Fisheries Science 88巻2号:337–344 (2022)
(パルスパワーによるアニサキスの不活性化とパルス処理したアジの品質評価)
鬼塚千波里,中村謙吾,王 斗艶,松田樹也,田中律夫,井上陽一,黒田理恵子,野田孝幸,根来健爾,根来尚康,浪平隆男
https://doi.org/10.1007/s12562-022-01593-2
【要旨】生食によるアニサキス症を予防するための最も一般的な方法は,冷凍であるが,これは刺身としての魚身の品質低下を引き起こす。冷凍以外でアニサキスを死亡させる実用性のある方法は見つかっていなかったが,今回パルスパワー技術を用いて,魚身に瞬間的に繰り返し電流を流すことにより,魚身内部にいるアニサキスを不活性化させることに成功した。パルス処理した後の魚身を評価し,刺身としての品質を保っていることを確認した。このパルスパワーによる処理は,冷凍に代わるアニサキス殺虫方法として有用であると考える。
【受賞理由】海産の魚介類を主に生食した際に起こる寄生虫アニサキスによる食中毒は,近年,社会的な問題となっている。その予防法については種々検討されてきたが,主要な対応策はいずれも冷凍を伴うものであり, 魚肉の品質低下を避けることは困難であった。本論文で報告されたパルスパワー技術を用いたアニサキスの殺滅方法は,魚肉の品質を保つアニサキス殺虫方法として期待される。論文へのアクセス数も非常に多く,また報道等にも取り上げられており,社会的な関心の高さがうかがえる。生食文化の障壁であるアニサキス問題の解決に向けたアイデアに加え,このような技術を発表するプラットホームとしてのFisheries Scienceの価値を高める可能性がある論文である。
5.Fisheries Science 88巻3号:397–409 (2022)
Effect of food amount and temperature on growth rate and aerobic scope of juvenile chum salmon
(サケ稚魚の成長速度と有酸素代謝余地に及ぼす水温と餌量の影響)
飯野佑樹,北川貴士,阿部貴晃,長坂剛志,清水勇一,太田克彦,川島拓也,河村知彦
https://doi.org/10.1007/s12562-022-01599-w
【要旨】本研究では,複数の水温・餌量条件下で飼育したサケOncorhynchus keta稚魚の,成長と運動へのエネルギー配分量を定量化した。その結果,高水温かつ低餌量条件下で,成長と運動へのエネルギー配分量は大幅に低下した。三陸沿岸域において,近年見られる暖流勢力の増大は,春季の高水温と低餌量環境をもたらし,十分に成長できない稚魚が減耗することで,親魚の回帰率が低下すると推察された。
【受賞理由】漁獲量の減少が大きな問題となっているサケに関して,実験的アプローチを通じて高水温やエサ不足の影響に関する重要な知見を提供した。近年のサケ回帰率の低迷の要因の一つを科学的に提唱した内容であり,高く評価できる。
6.Fisheries Science 88巻5号:635–643 (2022)
Red-spotted grouper Epinephelus akaara blood L-amino acid oxidase utilizes the substrates in plasma
(キジハタ血液に含まれる抗菌性L-アミノ酸オキシダーゼの基質について)
木谷洋一郎
https://doi.org/10.1007/s12562-022-01617-x
【要旨】キジハタEpinephelus akaara 血液中にはL-アミノ酸オキシダーゼ(EaLAO)が存在し,L-アミノ酸を基質として生じた過酸化水素が抗菌活性を示す。このEaLAO は海水との混合により活性化することで体内での過酸化水素産生を制御している。本研究でキジハタ血漿を海水と混合したところ過酸化水素の産生が認められた。アミノ酸分析では血漿にEaLAO の基質となりうる遊離アミノ酸類が確認された。血漿と海水を混合後にアミノ酸量を評価したところ主としてアラニンが減少し,これが血漿中のEaLAO基質として機能すると推測された。
【受賞理由】魚類の免疫に関与する抗菌性L-アミノ酸オキシダーゼの基質について検討したユニークな研究である。同酵素の詳細な機能解明を進める手がかりを見つけたことで,魚類免疫研究において今後発展する分野の端緒となる可能性がある。あまり研究例がない酵素が,粘液だけでなく,血液中で生体防御に寄与しているという点が面白く,また,著者が主体的に研究分野を創造している点も高く評価される。
7.日本水産学会誌 88巻4号:256–263 (2022)
四方崇文
https://doi.org/10.2331/suisan.21-00046
【要旨】1978 年から2019 年に日本海沖合で調査船によるイカ釣操業を行い,漁獲したスルメイカの外套長を測定し,体サイズの長期変化を調べた。2000 年代から2010 年代にかけて体サイズは小さくなる傾向にあった。外套長の季節変化を調べたところ,1990 年代以降,成体になる時期が遅れ,2000 年代以降,成長速度も低下し,成体になる時期の遅れと成長速度の低下が相まって,2000 年代以降,魚体の小型化が急速に進んだと判断した。この魚体の小型化には1980 年代末以降の長期的な水温上昇が関係していると考えられた。
【受賞理由】1978年以降の日本海におけるスルメイカの体サイズの長期変化について,そのトレンドを海水温変化との関係から精査したものである。長期にわたる地道な調査の蓄積から資源評価に役立つ情報を導き出し,環境の個体集団への影響を示す重要な知見を得た点が高く評価できる。
令和3年度日本水産学会論文賞受賞論文
公益社団法人日本水産学会 編集委員会
委員長 落合芳博
【総評】 日本水産学会では,毎年 Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から,特に優れたものを日本水産学会論文賞の受賞論文として表彰することにしている。本年度も,2021年に Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された論文,および過去6年間に出版され被引用数の多かった論文の中から選抜した。
まず2021年掲載の論文からの選考では,編集委員を漁業,生物,増養殖,環境,化学・生化学,利用・加工,社会科学の7分野に分け,その分野に該当する論文の20%に当たる数を第一次選考において最終選考対象として選抜した。各分野における内容の新規性,論文の完成度,社会的な影響力,今後の研究の方向性に与える影響など多様な視点から評価を行った。第二次選考における編集委員全員の投票の結果にもとづき,得票数が上位のものから授賞に値するかどうかの判定を行い,下記のとおり6編(1~6)の論文(総数のおよそ5%)を選出した。選考の過程では,編集委員各位の専門的な識見に基づいて,論文賞の目的に合致する優れた論文が選考されたものと考えている。なお,選出されなかった論文の中にも社会的に重要性の高い内容のものや研究の新たな展開に資すると思われるものも少なくなかった。今後も我が国の高品質な水産学の研究成果が継続的に発信されていくことに期待したい。
一方,過去6年間における被引用数が特に多かった論文の功績表彰については,下記の2編の論文(7,8)を選考した。授賞候補論文は被引用回数の多かった順に,魚加工残滓の機能性向上に関するもの,次いで,いけす中の魚から放出された環境 DNA の挙動に関するものである。いずれの論文も掲載後に安定して引用されてきており,Fisheries Science 誌の国際的な認知度を向上させる点で貢献度が大きいと考えられた。
1.Fisheries Science 87巻1号:85–91 (2021)
(コルチゾルはgonadal soma-derived growth factor (GSDF) とanti-Mullerian hormone receptor type 2 (AMHR2) を介してXXメダカの雄化を引き起こす)
原 誠二,澤村理英,北野 健
https://doi.org/10.1007/s12562-020-01479-1
【要旨】メダカ Oryzias latipes は,哺乳類と同様にXX/XY型の性決定様式をもつ硬骨魚類であるが,高水温下ではコルチゾル量の上昇により,XX個体での生殖細胞の増殖が抑制されて雄化する。本研究では,コルチゾル下流の雄化機構を解明するため,遺伝子ノックアウト(KO)技術を用いて,GSDF及びAMHR2の機能を解析した。その結果,これらKOメダカのXX個体においては,コルチゾルによる生殖細胞数の増殖が抑制されず,全ての個体が雌へと分化することが分かった。したがって,コルチゾルによるXXメダカの雄化には,GSDFとAMHR2が深く関与することが明らかとなった。
【受賞理由】本論文は,環境ストレスに依存したメダカの性決定メカニズムについて,オス化における2つの遺伝子の機能についてノックアウト系統を用いることで決定的な証拠を示しており,明確な結論と成果の波及性が評価された。メダカのみならず,多様な魚種における環境依存的な性決定機構の解明に貢献するところが大きいと考えられた。
2.Fisheries Science 87巻3号:321–330 (2021)
(環境DNAによって明らかにしたアユと冷水病菌の時空間分布)
天満陽奈子,常川光樹,藤吉里帆,髙井 一,廣瀬雅惠,政井菜々美,鷲見康介,瀧花雄大,柳澤壮玄,土田康太,大原健一,徐 寿明,高木雅紀,太田晶子,岩田浩義,矢追雄一,源 利文
https://doi.org/10.1007/s12562-021-01510-z
【要旨】Flavobacterium psychrophilumを病原体とする細菌性冷水病が日本国内で,特にアユの間で広く発生している。本研究では,F. psychrophilumとアユの動態を環境DNAを用いて調査することで,アユにおける細菌性冷水病への感染時期を調査した。長良川と揖斐川の河川水を毎月採水して環境DNA定量を行った結果,初夏と秋にアユ,F. psychrophilumともに比較的高いeDNA濃度が記録され,これらの季節にアユが冷水病に感染していることが示唆された。
【受賞理由】本論文では,アユの細菌性冷水病の発生時期が特定されているだけでなく,細菌性疾病によるアユ資源のダメージを環境DNAに基づく手法を用いて軽減するための提案をしており,本種の資源保全のために有益な内容を含むことが評価された。魚類の感染症に関する疫学調査に新たな手法を導入しようとする問題解決型の研究で,産業への波及効果も期待される。
3.Fisheries Science 87巻4号:465–477 (2021)
(狙い効果を考慮した混合分布モデルによるはえ縄漁業CPUE標準化手法のパフォーマンス評価)
芝野あゆみ,金岩 稔,甲斐幹彦
https://doi.org/10.1007/s12562-021-01515-8
【要旨】標準化CPUEは資源量指標として用いられるが,複数魚種を漁獲する漁業では狙い魚種によって漁獲係数が変化するため,狙い効果の取り扱い方は標準化CPUE推定値に影響する。本研究では混合分布モデル(FMM)に着目し,FMMを含む8つのCPUE標準化手法について,様々な資源と漁業の状況を想定したシナリオ下で数値シミュレーションを行い,狙い効果標準化パフォーマンスを評価した。結果,FMMはいずれのシナリオにおいても他の手法より優れたパフォーマンスを示したことから,CPUE標準化において狙い魚種を明らかにするための効果的かつ頑健な手法であると結論された。
【受賞理由】本論文では,資源評価で最も重要なデータとなる標準化CPUEの推定精度を上げるため,様々な手法を含めて丁寧な比較を行っており,複数魚種における漁業の評価に有用な知見を与えることが期待される。特に,混合分布を用いたモデルベースのクラスタリング法を挿入することにより一括した標準化を行う手法を提案し,その性質をシミュレーションによって詳細に比較している点が評価された。
4.Fisheries Science 87巻6号:785–793 (2021)
(マサバおよびゴマサバのPCR法による性判別の開発)
谷怜央人,川村 亘,森田哲朗,Christophe Klopp, Marine Milhes, Yann Guiguen, 吉崎悟朗, 矢澤良輔
https://doi.org/10.1007/s12562-021-01548-z
【要旨】マサバおよびゴマサバの性を対象としたpool-seqの結果から得た,性と強い関連を示す遺伝子配列を利用したPCR法による性判別法を開発した。また,本研究の結果からマサバでは雌ヘテロ型,ゴマサバでは雄ヘテロ型の性決定様式であることが示唆された。本法を日本各地で漁獲されたサンプルに適用したところ,マサバでは99.5%以上,ゴマサバでは94.5%以上の精度で性判定が可能であった。本法はヒレのサンプリングのみで実施可能な魚体へのストレスが少ない手法であり,種苗生産におけるサバ親魚の性比管理に有用である。
【受賞理由】近年,サバ類の養殖が注目されており,その性判別技術は種苗生産に欠かせない。本論文は,マサバおよびゴマサバのゲノム情報に基づいた性判別技術についてまとめられたものであり,サバ類の種苗生産技術の向上に資するものである。加えて,マサバでは雌ヘテロ型性決定様式(ZZ/ZW)であるのに対し,ゴマサバでは雄ヘテロ型(XX/XY)であることを示している。両種の性決定機構が異なる事実は生物学的な意義が大きいと考えられる。
5.Fisheries Science 87巻6号:861–869 (2021)
(クルマエビをモデルとした甲殻類血リンパにおけるフェノールオキシダーゼ活性源の再評価)
増田太郎
https://doi.org/10.1007/s12562-021-01558-x
【要旨】甲殻類のフェノールオキシダーゼ(PO)はメラニン形成反応に寄与する。一方,酸素運搬タンパク質であるヘモシアニン(Hc)も,特定の条件下でPO酵素活性を得る可能性が指摘されている。本研究では,クルマエビ体液中のPO活性本体について検証した。従来のHc調製法ではHcと体液中のPOを分離することが不可能であったが,硫安分画などからなる新たな方法により両者の分離に成功した。従来法のHc試料に認められるPO活性は体液中のPOに由来することが示され,一般的な実験条件下ではHcのPO活性は認められなかった。
【受賞理由】甲殻類は,死後にメラニンが生成することで体表が黒化し商品価値が損なわれる。黒化にはヘモシアニンが関与するとされていたが,詳細については不明の点が多かった。本論文では,メラニン生成はhemolymph型 POが触媒する反応であり,ヘモシアニンは関与しないことが明確に示されており,これまでの議論に決着をつけた点で有意義であることが評価された。
6.日本水産学会誌 87巻4号:409–420 (2021)
主要生鮮魚介類の消費多様度指数に見る日本の魚食文化の地域差と経年変化
大石太郎, 上杉昌也, 八木信行
https://doi.org/10.2331/suisan.20-00011
【要旨】 Shannon指数を用いて47都道府県庁所在市別に主要生鮮魚介類の消費魚種の多様度を数量化し,Global Moran’s I統計量とLocal Moran’s I統計量を用いてその空間的自己相関を分析した。消費魚種の多様度は2000年から2017年の間に日本全体で減少傾向にあり,多様度の高いまたは低い都市が特定地域に集中する傾向も経年的に弱まっていた。関西・瀬戸内地方の11都市が多様度の高いホットスポット,静岡市,甲府市,前橋市,長野市,青森市,札幌市の6都市は多様度の低いコールドスポットを示した。
【受賞理由】「家計調査」にもとづく水産物消費データは,魚種別,地域別,経年変化を含む多次元の大規模データであり,特性の要約や可視化に課題があった。本論文では,多様度指数による魚種情報の縮約と空間計量経済手法を組み合わせることにより国内各地の魚食の特徴を定量・可視化した結果が示されており,手法と知見のいずれも学術的価値が高いことが評価された。データや手法の記述も丁寧であり,水産学の今後の発展に寄与するところが大きいと考えられた。
7.Fisheries Science 83巻2号:317–331 (2017)
(マイクロウェーブを用いた酵素加水分解処理がニジマスOncorhynchus mykiss加工残滓の機能性および抗酸化性に及ぼす影響)
Elizabeth Nguyen, Owen Jones, Yuan H. Brad Kim, Fernanda San Martin-Gonzalez, Andrea M. Liceaga
https://doi.org/10.1007/s12562-017-1067-3
【要旨】マイクロウェーブを用いた酵素加水分解処理がニジマス加工残滓の機能性および抗酸化性に及ぼす影響について検討した。ニジマスの加工残滓をアルカラーゼを混合し,マイクロウェーブ(50–55℃, 1200W, 20%の出力)あるいは通常の方法(50℃のウォーターバス)で,一定時間加水分解した。同一の条件下において,加水分解の程度は,通常法に比較してマイクロウェーブを用いた方が高かった。また,乳化活性においてはマイクロウェーブを用いた加水分解物が,通常法のものより高かった。その他の機能性もマイクロウェーブ処理した加水分解物の方が高かったことから,マイクロウェーブ処理は加水分解物を生産するうえで,有用な方法と言える。
【受賞理由】本論文は過去6年間において,被引用件数が授賞対象論文の中で最も多かったため,論文賞授賞規程ならびに日本水産学会論文賞選考についての申合せ事項により,選定したものである。
8.Fisheries Science 85巻2号:327–337 (2019)
Dispersion and degradation of environmental DNA from caged fish in a marine environment
(いけすに収容した魚から放出される環境 DNA の海洋における分散と分解)
村上弘章,尹 錫鎭,笠井亮秀,源 利文,山本哲史,坂田雅之,堀内智矢,澤田英樹,近藤倫生,山下 洋,益田玲爾
https://doi.org/10.1007/s12562-018-1282-6
【要旨】環境 DNA(eDNA)の分散と分解の過程を明らかにするため,シマアジを収容したいけすを舞鶴湾内に設置した。いけす近傍と北西,北東方向に 10-1000 m 離れた 13 か所の定点で,いけすの設置と引き揚げ後の一定の時間後に表層の海水を採取した。種特異的検出系を用いた qPCR により,本種の eDNA は設置直後から検出され,陽性の全 57 検体のうち 45 検体は,いけすから 30 m 以内からであった。また,引き揚げ 2 時間以降は検出されなかった。よって eDNA 分析の結果は,長期間・広範囲ではなく,直近の生物情報を強く反映することが示唆された。
【受賞理由】本論文は過去6年間において,被引用件数が授賞対象論文の中で2位ではあるが1位とほぼ同数で,しかも引用件数が増加傾向にあるため,論文賞授賞規程ならびに日本水産学会論文賞選考についての申合せ事項により,選定した。
令和2年度日本水産学会論文賞受賞論文
公益社団法人日本水産学会 編集委員会
委員長 舞田 正志
【総評】 日本水産学会では,毎年 Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から,特に優れたものを日本水産学会論文賞の受賞論文として表彰することとしている。本年度も,2020年に Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から優れた論文を選考した。まず,編集委員を漁業,生物,増養殖,環境,化学・生化学,利用・加工,社会科学の7分野に分け,その分野に該当する報文から20%に当たる数を第一次選考において最終選考対象として選抜し,編集委員全員の投票によって7編の論文を以下のとおり選出した。
各編集委員が社会的な影響力,論文の完成度,将来の研究の方向性に与える影響など多様な視点で評価を行い,投票の結果,得票数上位のものから選考を行った。選考の過程では,編集委員各位の専門的な意見に基づいて,論文賞の目的に合致する優れた論文が選考されたものと考えている。なお,選出されなかった論文の中にも社会的に重要性の高い内容のものや研究の新たな展開に資すると思われるものも多く,我が国の高品質な水産学研究成果が今後も継続的に発信されることを期待したい。
過去6年間における被引用数が多かった報文1編の功績表彰については,他者に最も多く引用された報文を推薦するとの方針で選考した。授賞候補論文は,海外の養殖サケで問題となっている外部寄生虫症に関するもので,特に海外での引用が多く,Fisheries Science 誌の認知度を国際的にも高める上での貢献が大きいものと考えられた。2020年度にインパクトファクターが1を超え,国内研究の発表と並行して,国際誌として優れた研究情報の発信に寄与していきたい。
1. Fisheries Science 86巻1号:107–118 (2020)
深田陽久,北島レナト,品川純兵,森野はる香,益本俊郎
https://link.springer.com/article/10.1007/s12562-019-01361-9
【要旨】ドコサヘキサエン酸を多く含む藻類ミール(AM)と混合植物油による飼料中魚油の完全代替がブリの成長と脂肪酸組成に及ぼす影響を調べた。飼料油脂源にタラ肝油のみを加えた飼料(対照)と,これをキャノーラ油とパーム油の混合油で代替し,AMを0,1,2,3または4%で添加した計6種の飼料を用いて,8週間飼育した。その結果,AM2%区で良好な成長が見られた。全魚体の脂肪酸組成は飼料のそれをほぼ反映していた。以上のことから,AMはブリ飼料における魚油の代替において有効な原料であることが示された。
【推薦理由】魚粉・魚油削減飼料の開発は,持続的な養殖生産の実現に向けて喫緊の課題である。本論文は,魚油の代替原料として,DHAを豊富に含む藻類ミールの利用性を,ブリを用いて検討したもので,新規原料の応用に向けた研究として評価できる。魚油の代替原料についてはこれまでにも研究がなされているが,DHAの供給源となるものは少なく,本成果は,他魚種への利用などさらなる発展が期待されるとともに,消費者の健康志向ニーズにあった養殖ブリ生産に繋がると考えられる。
2. Fisheries Science 86巻1号:127–136 (2020)
Prevention of hypermelanosis by rearing Japanese flounder Paralichthys olivaceus in net-lined tanks
水谷昂栄,山田敏之,鈴木啓太,益田玲爾,中田訓彰,田川正朋
https://link.springer.com/article/10.1007/s12562-019-01369-1
【要旨】 養殖ヒラメに出現する着色型黒化の防除を目的として,水槽内面を網(目合い4 mm)で覆ってヒラメ稚魚(標準体長6 cm)を飼育した。2か月後,対照区では無眼側上の黒化面積は約20%に達したが,網敷区では約0.5%と1/40に抑制された。防除が特に困難な胸鰭基部では黒化の出現は防げなったが,目合い12 mmの網を用いると黒化の拡大は有意に減少した。また,網敷区では成長は5–15%抑制されたが,体高と体長の比は天然魚に近づいた。以上より網敷き飼育は,養殖ヒラメの黒化防除に有効であると考えられた。
【推薦理由】養殖ヒラメの無眼側黒化は,商品価値の低下に繋がり,その低減技術が求められている。本論文は,著者らの前報から得られた情報を元に,水槽内面を網で覆うことでヒラメの着色型黒化防除技術の開発を試みたものであり,結果も明瞭である。また,無眼側黒化防除以外に,本手法を用いることで,体高・体長比が天然魚に近くなることも明らかにした。本成果を用いることで体型,体色ともに天然魚に近づけることができ,ヒラメ養殖技術の改善において重要な知見が得られている。
3. Fisheries Science 86巻2号:339–351 (2020)
Precocious maturation in male tiger pufferfish Takifugu rubripes: genetics and endocrinology
吉川壮太,中田 久,濱崎将臣,門村和志,山田敏之,菊池 潔,細谷 将
https://link.springer.com/article/10.1007/s12562-019-01390-4
【要旨】トラフグの精巣は経済価値が極めて高い。長崎県内では精巣が通常よりも早く発達する早熟家系(A家系)の存在が知られ,広く流通している。しかし,早熟現象が真に遺伝によるものかは不明であった。本研究において複数の後代検定を行った結果,A家系に由来する個体は他の個体よりも精巣の発達が早く,早熟が遺伝形質であることが示された。また,血中ステロイド濃度を野生親魚由来の種苗と経時的に比較したところ,A家系由来の種苗は精巣発達前の血中estradiol-17β濃度が高かった。以上の結果は,早熟形質の選抜育種が可能であることを示唆する。
【推薦理由】本論文は,養殖トラフグの有用な形質である精巣早熟が,遺伝形質であるかどうかを,複数の後代検定により解析し,精巣早熟が遺伝的に決まることを明らかにした。綿密な計画と,その計画を十分に実施しうる幅広い共同研究,長期の飼育実験の実施など,いずれも非常にレベルが高く,労力を惜しまない研究と高く評価できる。本成果は,基礎生物学的に重要な知見であるとともに,高付加価値なトラフグ育種にも貢献が期待され,水産学的にも有用である。
4. Fisheries Science 86巻3号:445–456 (2020)
橋本 緑,木所英昭,巣山 哲,冨士泰期,宮本洋臣,納谷美也子,ヴィジャイ・ダルママニ,上野康弘,北門利英
https://link.springer.com/article/10.1007/s12562-020-01407-3
【要旨】北西太平洋において2003 年から実施されているサンマの表層トロール調査から,日本漁船の漁期前となる6, 7 月における本種の広域分布や資源量を推定した。面積密度法による資源量推定値とその分散は,5 つの事後層化手法間でほとんど差が見られず,全ての層化手法で資源量の減少が見られた。特に,経線に沿った調査線ごとの層化は,調査海域西部における資源量の減少と2010 年以降の分布重心の推移を示し,本種の日本沿岸への西方回遊を考慮した個体群動態モデルの構築に有効な手法となり得ることが示唆された。
【推薦理由】近年の漁獲量減少が深刻化しているサンマの資源量を推定したもので,解析手法がしっかりしており,またニーズも高く,今後の資源量推定に重要な論文となることが期待できる点を評価した。
5. Fisheries Science 86巻5号:819–827 (2020)
Sexual bipotentiality of the olfactory pathway for sexual behavior in goldfish
篠原 優,小林牧人
https://link.springer.com/article/10.1007/s12562-020-01454-w
【要旨】キンギョは非性転換魚であるがホルモンの投与により雌雄逆の性行動の誘起が可能であり,脳が両性であることが示唆されている。また雌雄の性行動には嗅覚が必須であり,雄は促進系嗅覚経路,雌は抑制系嗅覚経路と雌雄に特異的な嗅覚経路を持つことが知られている。本研究では,嗅覚遮断(鼻腔閉塞と嗅索切断)処理による性行動の発現の影響を調べたところ,雌も雄型の促進経路を持ち,雄も雌型の抑制経路を持つことが明らかとなった。これらの結果から,キンギョの脳が両性であることが神経解剖学的に示された。
【推薦理由】キンギョをモデルとして,嗅覚経路の遮断実験を行うことで,キンギョの脳が両性型であることを神経解剖学的に明確に示した論文である。学術上また増養殖学上も重要な生命現象である魚類の性の可塑性の理解に資する知見となる点を評価した。
6. 日本水産学会誌 86巻1号:9–19 (2020)
生化学的アプローチによるガンガゼ Diadema setosumの天然餌料の検討
丹羽健太郎, 黒木洋明, 澤山周平, 梶ヶ谷義一, 寺本 航, 折田 亮, 石樋由香, 渋野拓郎, 早川 淳, 張 成年
https://doi.org/10.2331/suisan.19-00015
【要旨】神奈川県横須賀市長井地先で採集したガンガゼ(殻径47.3 ± 2.4 mm,体重48.5 ± 1.9 gWW, n = 9)に生息場所の優占海藻である褐藻カジメを与えて1年間飼育し,平均摂餌速度を求めるとともに,海藻の消化に関わる酵素活性及び炭素窒素安定同位体比を飼育個体と天然個体で比較した。飼育個体のカジメ摂餌量は夏季に最大となり,年間平均摂餌速度は0.69 gWW day−1だった。飼育終了時でのガンガゼの消化酵素活性は天然個体のものよりも有意に高く,窒素安定同位体比は有意に低かった。栄養段階を算出した結果,天然個体の栄養段階は肉食動物に相当する3.23だったことから,本海域のガンガゼの主餌料は海藻ではない可能性が示唆された。
【推薦理由】ガンガゼについて飼育実験を実施し,多角的な分析により磯焼けへの関与を検討した論文である。海藻への摂食圧が小さいことを明らかにしており,藻場や磯根資源にとって重要な情報を提示している点を評価した。
7. 日本水産学会誌 86巻5号:418–426 (2020)
南 駿介, 髙取宗茂, 白山 洸, 沖田歩樹, 中村柚咲, 髙橋希元
https://doi.org/10.2331/suisan.20-00014
【要旨】寿司店で提供されている13–31日間長期熟成したカンパチ,アオリイカ,マカジキおよびシマアジの熟成前後における呈味成分とテクスチャーの変化を検討した。その結果,イノシン酸(IMP)含量,硬さ,水分含量および圧搾ドリップ率が低下し,遊離アミノ酸含量は増加していた。またK値は46.7–76.5%を示し,SDS-PAGEによるタンパク質分解が観察された。本研究結果は,熟成魚介類が鮮度を重視する既存の生食用魚介類の知見とは大きく異なる特徴を有し,新たな水産食品として利用できる可能性を示唆した。
【推薦理由】最近,寿司店等で提供されている長期熟成した魚肉について生食としての知見を示した新規な研究である。タンパク質レベルでの実験結果も含んでおり,説得力も高い研究成果である。科学的なエビデンスに基づいて,食品を消費者に提供することにつながる本研究は,実学的価値が高いものと考えられる。
8. Fisheries Science 83巻5号:661–670 (2017)
Enrique Blanco Gonzalez, Femke de Boer
https://link.springer.com/article/10.1007/s12562-017-1110-4
【要旨】ノルウェーの大西洋サケSalmo salar養殖は世界をリードしており,世界中で消費されている。しかし,ノルウェーのサケ養殖ではサケジラミの寄生が大きな問題となっている。サケ養殖のサケジラミ駆除について,天然で漁獲した駆虫魚(主にベラ類)の利用が,他の駆虫法よりも経済的にも環境的にも優れた手法として推奨されている。我々はノルウェーにおけるベラ類漁業の発展とその駆虫魚としての利用について総説する。まず,サケジラミ症の現状,駆虫魚として代表的なベラ類の種とそれらのクリーニング行動を紹介し,次にサケ養殖業とともに発展したベラ類漁業について述べ,最後に天然由来駆虫ベラ使用の集中によって起こる問題を挙げ,ベラ類漁業の将来の方向性とともに,人工種苗生産した駆虫ベラの供給の発達についても議論する。
【推薦理由】本論文は過去6年間において,被引用件数が特に多く,論文賞授賞規程ならびに日本水産学会論文賞選考についての申合せ事項により,選定したものである。今回は特に引用先の詳細も含めて選考を行い,本論文が論文賞を授与するに値する高い学術的価値を有する内容のものであると評価した。
令和元年度日本水産学会論文賞受賞論文
【総評】 日本水産学会では,毎年 Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から,特に優れたものを日本水産学会論文賞の受賞論文として表彰することとしている。本年度も,2019年に Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から優れた論文を選考した。まず,編集委員を漁業,生物,増養殖,環境,化学・生化学,利用・加工,社会科学の7分野に分け,その分野に該当する報文から20%に当たる数を第一次選考において最終選考対象として選抜し,編集委員全員の投票によって7編の論文を以下のとおり選出した。
選考においては社会的な影響力,論文の完成度,将来の研究の方向性に与える影響など多様な視点で評価を行い,いずれも,質の高い水産学研究の成果を世界的に発信していくという方針の達成にふさわしいレベルのものばかりであると考える。なお,選出されなかった論文の中にも社会的に重要性の高い内容のもの,今後の他研究者からの引用や社会実装につながる可能性のある論文も多く,今後も世界から求められる我が国の高品質な水産学研究成果の投稿が増えることを期待する。
過去6年間における被引用数が多かった報文1編の功績表彰については,他者に最も多く引用された報文を推薦するとの方針で選考した。受賞論文は,特に海外での引用が多く,Fisheries Science 誌の認知度を国際的にも高める上での貢献が大きく,このことに感謝したい。編集委員会ではこれからも ,国内研究の発表と並行して,国際的にも優れた研究や重要な話題を提供できるジャーナルの編集に力を注いでいきたいと考える。
1. Fisheries Science 85巻3号:483–493 (2019)
(産卵場で採集されたニホンウナギ親魚の耳石Sr安定同位体比による成長場所の推定)
大竹二雄,天野洋典,白井厚太朗(東大大気海洋研),望岡典隆(九大院農),高橋俊郎(JAMSTEC),張 成年,黒木洋明(水産機構中央水研),Dou Shouzeng(中国科学院海洋研),山口飛鳥(東大大気海洋研),塚本勝巳(東大院農)
https://doi.org/10.1007/s12562-019-01304-4
[受賞理由] 産卵場で採集されたニホンウナギの成育水域を,中国,韓国,台湾を含む広範囲の水サンプルの分析データをもとに推定した研究で,回遊生態を解明できる可能性を示唆するとともに,ウナギの資源管理に有用な知見を提示した。外洋で営まれる魚類の繁殖生態についての大きな成果であると評価した。
2. Fisheries Science 85巻3号:495–507 (2019)
(北太平洋で6-7月に採集されたサンマ1歳魚の海域による産卵履歴の違い)
巣山 哲(水産機構東北水研),小澤 瞳(北大院水),柴田泰宙,冨士泰期,中神正康(水産機構東北水研),清水昭男(水産機構中央水研)
https://doi.org/10.1007/s12562-019-01308-0
[受賞理由] 著者らが飼育実験によって開発したサンマ経産魚の判別手法をフィールドに適用した研究で,産卵経験の有無に着目した産卵生態の研究として,サンマ資源研究に新しい知見を追加している。資源管理の必要性が急速に高まりつつある同種の再生産過程の理解に有用であり,得られた知見は資源管理に大きく貢献するものと評価した。
3. Fisheries Science 85巻3号:601–609 (2019)
Below-zero storage of fish to suppress loss of freshness
(0℃以下の低温保管による魚類鮮度低下の抑制)
吉岡武也(北海道立工業技術センター),今野敬子,今野久仁彦(北大院水)
https://doi.org/10.1007/s12562-019-01294-3
[受賞理由] 魚類の鮮度保持は水産食品分野の重要課題のひとつである。研究テーマ自体に新規性があるわけではないが,従来研究ではデータが荒かった問題点を,きれいなデータにまとめ上げており,また,今後,多くの有用魚種での検討が必要であるものの,流通の現場で,すぐに活用できる成果であり,本論文は,実学的にも価値の高い論文と評価した。
4. Fisheries Science 85巻4号:677–685 (2019)
(ビテロジェニンシグナルによる卵への外来タンパク質輸送システムの開発)
村上 悠,堀部智久,木下政人(京大院農)
https://doi.org/10.1007/s12562-019-01320-4
[受賞理由] ビテロジェニン(Vtg)が卵内に取り込まれるしくみであるVtgシグナルを利用して外来タンパク質を卵に蓄積させた論文である。外来タンパク質を卵に蓄積させる手法を新たに開発し,今後卵を利用する物質生産,交雑種苗などの卵黄蓄積不全による卵質低下の改善等応用面の貢献に加え,産卵期に特異的に見られる蓄積現象の解明につながる基礎研究としての発展も期待できると評価した。
5. Fisheries Science 85巻6号:1055–1065 (2019)
(日本における事例を対象とした超集約型閉鎖循環エビ養殖の生物経済学的分析および経営改善プランの提言)
進士淳平(東大院農),野原節雄(IMTエンジニアリング株式会社),八木信行(東大院農),マーシー・ワイルダー(国際農研)
https://doi.org/10.1007/s12562-019-01357-5
[受賞理由] 環境に配慮した持続的養殖生産技術として,閉鎖循環養殖技術の開発は世界的な流れの一つであるが,商業レベルでの成功は容易ではない。本論文は,養殖技術とは別のアプローチである生物経済学的解析により,超集約型閉鎖循環エビ養殖における生産性決定機構を分析し,経営改善のプランを提言している。実験科学的な要素とシミュレーションを融合させ,生産現場に貢献できる提言へとつなげている点を評価した。
6. 日本水産学会誌 85巻2号:134–141 (2019)
田中栄次(海洋大)
https://doi.org/10.2331/suisan.18-00033
[受賞理由] 資源管理は持続的生産の基本であり,科学的データの解析・蓄積は必須である。本論文は,きわめて実際的な資源管理上の問題に対して理論的側面と実証的側面からアプローチしたものである。古典的な資源解析モデルをベースに社会科学的な視点を組み合わせ,科学的にもフェアな議論に基づいた提言が行われており,政策的なインプリケーションも大きいと評価した。
7. 日本水産学会誌 85巻3号:305–313 (2019)
下田和孝, 卜部浩一, 川村洋司(道さけます内水試)
https://doi.org/10.2331/suisan.18-00054
[受賞理由] 本論文は,サクラマス資源への魚道設置の影響を,設置前から段階的設置の過程を経て,設置完了後まで10年間の調査により明確に示したものである。長期間にわたる地道な手法でサクラマスの再生産に及ぼす魚道設置の効果を検証した論文であり,サクラマスの資源管理および河川管理に重要な知見をもたらすものと評価した。
8. Fisheries Science 80巻5号:1001–1007 (2014)
(養殖アカオエビ Penaeus penicillatus の腸管内および飼育環境における細菌叢とプランクトン叢)
Chun-zhong Wang(福建省莆田水産科学研究所),Guo-rong Lin(莆田学院),Tao Yan(中国科学院南海海洋研究所),Zhi-peng Zheng, Bin Chen(Putian Tian Ran Xing Agriculture Development Co. Ltd.),Fu-lin Sun(中国科学院南海海洋研究所)
https://doi.org/10.1007/s12562-014-0765-3
[受賞理由] 養殖アカオエビの腸内細菌叢と養殖環境(底質及び飼育水)中の細菌叢,健康なエビと病エビの腸内細菌叢,ならびに養殖環境と外海水のプランクトン叢の比較を行った研究であり,両者間の相違を明らかにしている。本論文は過去6年間において,被引用件数が特に多く,論文賞授賞規程ならびに日本水産学会論文賞選考についての申合せ事項により,選定したものである。
平成30年度日本水産学会論文賞受賞論文
【総評】 日本水産学会では,毎年 Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から,特に優れたものを日本水産学会論文賞の受賞論文として表彰することとしている。本年度も,2018年に Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から優れた論文を選考した。まず,編集委員を漁業,生物,増養殖,環境,化学・生化学,利用・加工,社会科学の7分野に分け,その分野に該当する報文から20%に当たる数を第一次選考において賞選考対象として選抜した。その結果をもとに,編集委員全員で6編の論文を以下のとおり選出した。
いずれも,レベルの高いものばかりであり,今後,水産分野だけでなく,基礎生物科学や生態学の分野からの引用が期待できる論文である。なお,選出されなかった論文の中にも非常に価値の高いものも多々見られ,今後も学術分野・在野の垣根を越えた引用や活動につながる投稿が増えることを期待する。
過去6年間における被引用数が多かった報文の功績表彰については,他者に最も多く引用された報文を推薦する。特に海外での引用が多く,Fisheries Science 誌の認知度を国際的にも高める上で貢献していただいたことに感謝を表したい。編集委員会ではこれからも ,国内研究の発表と並行して,国際的にも優れた研究や重要な話題を提供できるジャーナルの編集に力を注いでいきたいと考える。
1. Fisheries Science 84巻2号:173–187 (2018)
Ontogenetic habitat shift of age-0 Japanese flounder Paralichthys olivaceus on the Pacific coast of northeastern Japan: differences in timing of the shift among areas and potential effects on recruitment success
(東北地方太平洋岸におけるヒラメ当歳魚の成長に伴う生息場所変化:加入成功におよぼす影響)
栗田 豊,岡崎雄二(水産機構東北水研),山下 洋(京大フィールド研セ)
[受賞理由] 仙台湾の定点で4年にわたってヒラメ稚魚を採集し,分布・成長・摂餌・肥満度・被食等の分析を行った論文である。一般に,ヒラメの生息域は成長に伴って沖合へとシフトするが,仙台湾においては,餌環境の良い年には浅海に止まる個体が多く存在することが分かり,生息域の並行利用が生じていることが明らかとなった。当海域におけるヒラメの特殊性を他海域での報告例と比較することで,同種の柔軟な生活史戦略を丁寧に説明していることを高く評価した。
2. Fisheries Science 84巻2号:335–347 (2018)
Impacts of the nonlinear relationship between abundance and its index in a tuned virtual population analysis
(チューニングVPAにおける資源量指数の非線形性の影響)
橋本 緑,岡村 寛,市野川桃子(水産機構中央水研),平松一彦(東大大気海洋研),山川 卓(東大院農)
[受賞理由] 資源評価のための資源解析では,コホート解析(VPA)が一般的に用いられ,精度を上げるためにCPUEによって,チューニングするチューニングVPAが度々行われる。本論文は,CPUEと資源量を非線形関係にあると仮定することによって,後進法のバイアスを軽減させられることを明快に示した。将来予測シナリオの精度向上にも貢献する手法であることから,高く評価した。
3. Fisheries Science 84巻3号:477-484 (2018)
Effect of exposure to low salinity water on plasma ion regulation and survival rates in artificially wounded devil stinger Inimicus japonicus
(低塩分海水への暴露が外傷を付与したオニオコゼInimicus japonicusの血中イオン制御および死亡率に与える影響)
川口 修,御堂岡あにせ,岩本有司,工藤孝也(広島水海技セ),飯田悦左(広島総研),長尾則男,松本拓也(県立広島大)
[受賞理由] 外傷を負ったオニオコゼを通常の海水で飼育すると多くの個体が死亡するが,1/3に希釈した海水で飼育するとほぼ全ての個体が生き残ることを見出し,その生理学的な原因を解析した。解析の結果,1/3に希釈した海水で飼育すると,鰓の機能を介して体内のイオン環境が適切に維持され,生存率が向上することが明らかとなった。生理メカニズムを明らかにした点,活魚輸送等への応用が期待できる点など,様々な観点から高く評価した。
4. Fisheries Science 84巻3号:495–504 (2018)
Spawning induction of blue mackerel Scomber australasicus and eastern little tuna Euthynnus affinis by oral administration of a crude gonadotropin-releasing hormone analogue
(粗精製生殖腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログ(GnRHa)の経口投与を用いたゴマサバScomber australasicusおよびスマEuthynnus affinisの産卵誘発)
雨澤孝太朗,矢澤良輔(海洋大院),竹内 裕(鹿大水),吉崎悟朗(海洋大院)
[受賞理由] マグロ類などハンドリングによるストレスに弱い魚類の産卵を誘発する手法として,安価な粗精製GnRHaの経口投与法を検討し,従来のコレステロールペレット腹腔内埋め込み法よりも受精率,ふ化率で優れた結果を得て,この方法の有用性を示した。研究を丁寧に進めており,説得力ある内容で,優れた論文と評価する。
5. Fisheries Science 84巻3号:535–551 (2018)
Oocyte maturation and active motility of spermatozoa are triggered by retinoic acid in pen shell Atrina pectinata
(レチノイン酸はタイラギの卵成熟を誘起し精子運動を活性化する)
淡路雅彦,松本才絵(水産機構増養殖研),小島大輔,井上俊介(水産機構瀬水研),鈴木道生(東大院農),兼松正衛(水産機構瀬水研)
[受賞理由] 他の二枚貝類で卵成熟を誘起させる生理活性物質はタイラギでは効果がない。著者等はall-trans レチノイン酸(RA)がタイラギの卵成熟誘起に効果を有することを見いだした。また,精子運動の活性化にも効果を持つことも初めて明らかにした。タイラギの卵成熟においてRAが重要な役割を果たすことが示され,単にタイラギの人工催熟に応用できるだけでなく,比較生理学的・比較内分泌学的にも非常に興味深い知見であることから,高く評価した。
6. 日本水産学会誌 84巻5号:835-842 (2018)
高濃度のアデノシン三リン酸存在下で凍結し解凍したヒラメ肉の性状
緒方 由美, 岩根 理歩, 木村 郁夫(鹿大水・鹿大連農)
[受賞理由] ヒラメを生食として消費する際に高品質な性状で提供可能とする基礎的知見が述べられている。ATPのタンパク質変性抑制作用に着目し,冷凍解凍後にもヒラメの刺身を高品質な状態で提供可能な製造法について検討している。ヒラメを活けしめ後,魚肉中に高濃度のATPが残存した状態で急速凍結し,解凍硬直を抑制するために緩慢解凍を行うことによって筋原線維タンパク質の変性が抑制され,高品質な刺し身の性状を維持可能であることを示した。寄生虫対策のみならず,冷凍品の輸出においても貢献する可能性もあり,高く評価した。
7. Fisheries Science 79巻5号:815–821 (2013)
Effect of feeding rotifers enriched with taurine on the growth and survival of larval amberjack Seriola dumerili
(タウリン強化ワムシの給与がカンパチ仔魚の成長および生残に及ぼす影響)
松成宏之(水研セ増養殖研),橋本 博(水研セ志布志),岩崎隆志(水研セ上浦),小田憲太朗,増田賢嗣,今泉 均,照屋和久(水研セ志布志),古板博文,山本剛史,浜田和久,虫明敬一(水研セ増養殖研)
[受賞理由] 市販のタウリン強化剤で強化したS型ワムシをカンパチ仔魚に与え,成長と生残率が改善されることを明らかにしたものである。本論文はカンパチ養殖に重要な情報を提供したのみならず,過去6年間における被引用件数が特に多かった。そのため,論文賞授賞規程ならびに日本水産学会論文賞選考についての申合せ事項に従って選定した。
平成29年度日本水産学会論文賞受賞論文
【総評】 日本水産学会では,毎年 Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から,特に優れたものを日本水産学会論文賞の受賞論文として表彰することとしている。本年度も,2017年に Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から優れた論文を選考した。まず,編集委員を漁業,生物,増養殖,環境,化学・生化学,利用・加工,社会科学の7分野に分け,その分野に該当する報文から20%に当たる数を第一次選考において賞選考対象として選抜した。その結果をもとに,編集委員全員で4編の論文を別紙のとおり選出した。
いずれも,レベルの高いものばかりであり,今後,水産分野だけでなく,基礎生物科学や生態学の分野からの引用が期待できる論文である。また,地域における生態系保全活動と水産学研究の連携論文も授賞候補に加えた。なお,選出されなかった論文の中にも非常に価値の高いものも多々見られ,今後も学術分野・在野の垣根を越えた引用や活動につながる投稿が増えることを期待する。
過去6年間における被引用数が多かった報文の功績表彰については,他者に最も多く引用された報文を推薦する。特に海外での引用が多く,Fisheries Science 誌の認知度を国際的にも高める上で貢献していただいたことに感謝を表したい。編集委員会ではこれからも ,国内研究の発表と並行して,国際的にも優れた研究や重要な話題を提供できるジャーナルの編集に力を注いでいきたいと考える。
1. 日本水産学会誌 83巻2号:163-173 (2017)
ミトコンドリアDNAの塩基配列から推測した日本産ニシンの集団構造と個体群動態史
藤田 智也, 北田 修一, 原田 靖子, 石田 ゆきの, 佐野 祥子, 大場 沙織(海洋大), 菅谷 琢磨(水産機構瀬水研), 浜崎 活幸(海洋大), 岸野 洋久(東大院農)
[受賞理由] 水産重要種であるニシンの遺伝的多様性と集団構造を,広域かつ長期にわたる膨大なサンプル数と精度の高い遺伝解析手法によって明らかにした点が高く評価される。また,集団構造の地域間差,東日本大震災前後での変化,さらには地史的要因にも分析と考察が及んでおり,幅広い読者の興味を惹く論文として仕上がっている点も,非常に高く評価される。
2. Fisheries Science 83巻3号:401-412 (2017)
Transcriptome analysis of tetrodotoxin sensing and tetrodotoxin action in the central nervous system of tiger puffer Takifugu rubripes juveniles
(トラフグ稚魚のフグ毒の知覚と中枢神経作用に関するトランスクリプトーム解析)
沖田 光玄(長大院水環),陳 盈光,佐藤根 妃奈,木下 滋晴,浅川 修一(東大院農),小島 大輔,山崎 英樹(水産機構瀬水研),崎山 一孝(水産機構日水研),高谷 智裕,荒川 修,萩原 篤志,阪倉 良孝(長大院水環)
[受賞理由] トランスクリプトーム解析によって,トラフグ稚魚がフグ毒を積極的に取り込んでいる可能性を示唆するなど,フグ毒蓄積のメカニズムについての新しい情報を提供している。フグ毒蓄積のメカニズムは海洋生物学の積年の謎であること,フグ毒が稚魚のかみ合いに関係する例もあることなどを考えると,学術的にも水産増養殖においても非常に有益な論文と考えられる。
3. Fisheries Science 83巻2号:273-281 (2017)
Molecular cloning and expression of the heat shock protein 70 gene in the
Kumamoto oyster Crassostrea sikamea
(Kumamoto oysterシカメガキにおけるhsp70遺伝子の単離および発現)
永田 大生,鮫島 守(熊本水研セ),内川 拓,長船 奈津美,北野 健(熊大院自然科学)
[受賞理由] 重要な養殖対象種であるシカメガキは高温ストレスに弱く,夏季の大量死が問題となっている。本論文は,シカメガキの高温耐性と熱ショックタンパク質Hsp70の関係を解析し,いくつかの重要な知見を提供している。中でも,シカメガキを1時間プレヒートすることで,その後の高温処理に耐えることができるようになるという発見は,本種の夏季大量死に対する有効な対応策を示唆しており,価値ある論文である。
4. 日本水産学会誌 83巻4号:599-606 (2017)
石川 達也(三重大院生資・尾鷲市役所), 戸瀨 太貴(串本古座高校), 阿部 真比古(水産機構水大校), 岩尾 豊紀(鳥羽市水研), 森田 晃央, 前川 行幸, 倉島 彰(三重大院生資)
[受賞理由] 藻場再生が行われている三重県早田浦において,ガンガゼ除去の前後における変化を調べた結果,ガンガゼ除去により大型藻類だけでなく小型藻類が回復を示し,磯焼け状態から藻場へ回復したと考察している。本論文はガンガゼ除去による藻場再生の効果を明確に示しており,今後藻場再生の指針ともなりうるとともに,地元の漁業者や地方自治体と連携して調査した点でも価値ある論文である。
5. Fisheries Science 78巻1号:15-22 (2012)
Association of early juvenile yellowfin tuna Thunnus albacares with a network of payaos in the Philippines
(フィリピンのパヤオネットワークとキハダ幼魚の関係)
光永 靖,遠藤 周之(近大農),安樂 和彦(鹿大水),Cornelio M. Selorio Jr., Ricardo P. Babaran(UPV,フィリピン)
[受賞理由] キハダ幼魚は,夜間は比較的浅く狭い層を遊泳し,昼間は深く広い層を遊泳する日周鉛直移動や日周水平移動など,これまでに報告されている成魚とよく似た行動を示す一方,成魚のようにパヤオネットワーク内には長くとどまらず,回遊の途中であることを示したものである。本論文は過去6年間において,被引用件数が特に多く,論文賞授賞規程ならびに日本水産学会論文賞選考についての申合せ事項により,選定したものである。
平成28年度日本水産学会論文賞受賞論文
【総評】 日本水産学会では,毎年 Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から特に優れたものを日本水産学会論文賞の受賞論文として表彰することとしている。本年度も,2016年に Fisheries Science 誌と日本水産学会誌に掲載された報文の中から優れた論文を選考した。まず,編集委員を漁業,生物,増養殖,環境,化学・生化学,利用・加工,社会科学の7分野に分け,その分野に該当する報文から20%に当たる数を第一次選考において賞選考対象として選抜した。その結果をもとに,編集委員全員で4編の論文を別紙のとおり選出した。
いずれも,レベルの高いものばかりであり,今後,水産分野だけでなく,医学や栄養学の分野からの引用が期待できる論文である。今回,選考されなかった論文の中にも非常に価値の高いものも多々見られ,今後の引用が期待される。
また,過去6年間における被引用数が多かった報文の功績表彰については,最も多く引用された報文は昨年受賞したので,2番目に多く引用された報文を推薦した。本件は編集委員会が執筆を依頼した生理学分野の総説であるが,特に海外での引用が多く,Fisheries Science 誌の認知度を国際的にも高める上で貢献していただいたことに感謝を表したい。編集委員会では,これからも優れた研究者に総説の執筆をお願いしていく予定である。
1. Fisheries Science 82巻1号:59-71 (2016)
Body size is the primary regulator affecting commencement of smolting in amago salmon Oncorhynchus masou ishikawae
(アマゴのスモルト化決定の主要因は体サイズである)
桑田知宣(岐阜水研),徳原哲也(岐阜水研・下呂),清水宗敬(北大院水),吉崎悟朗(海洋大)
[受賞理由] サケ科魚におけるスモルト化の決定要因には諸説あり,半世紀にわたり多くの説が提唱されてきた。雌性発生の全雌クローンアマゴを実験に用いるというアイデアによって,スモルト化を決定する主要因は成長率ではなく,その時点での体サイズであることを明確に示した点は実に見事である。サイエンティフィックな面白さ,データの質と量,論文の論理構成,いずれも明瞭で,専門外でも納得させられる内容である。
2. Fisheries Science 82巻2号:225-240 (2016)
Maturation process and reproductive biology of female Arabesque greenling Pleurogrammus azonus in the Sea of Japan, off the west coast of Hokkaido
(道西日本海におけるホッケ Pleurogrammus azonus 雌の成熟過程と成熟特性)
高嶋孝寛,岡田のぞみ(道栽水試),浅見大樹,星野 昇(道中央水試),志田 修(釧路水試),宮下和士(北大フィールド科セ)
[受賞理由] 北海道西岸でのホッケ雌の性成熟過程を調査した論文である。十分な数のサンプルをもとに丁寧に熟度解析,組織学的解析を進めている点,論文全体の論理構成がしっかりしている点で,非常に高く評価できる。ホッケの資源減少が危惧される中,その対策を考える上での土台となり得る信頼性の高いデータを提供した価値ある論文である。
3. Fisheries Science 82巻2号:357-367 (2016)
Conjugation with alginate oligosaccharide via the controlled Maillard reaction in a dry state is an effective method for the preparation of salmon myofibrillar protein with excellent anti-inflammatory activity
(制御されたメイラード反応によるアルギン酸オリゴ糖修飾はシロザケ筋肉由来抗炎症物質の開発に有効な手段である)
西澤瑞穂,三枝武蔵,佐伯宏樹(北大院水)
[受賞理由] メイラード反応の利用により,アルギン酸オリゴ糖修飾を施すことで,シロザケ筋肉由来タンパク質が,抗炎症作用を持つことを示した論文である。水産物の高機能・高付加価値化に繋がる内容であり,今後,水産分野だけでなく,医学や栄養学の分野からの引用が期待できる。
4.日本水産学会誌 82巻4号:608-618 (2016)
樋口 恵太, 永井 清仁, 服部 文弘, 前山 薫, 瀬川 進, 本城 凡夫((株)ミキモト真珠研究所)
[受賞理由] 真珠収穫後のアコヤガイ貝肉に貝掃除屑を加えてコンポスト化を試み,その実用化についての基礎的な知見を得ることを目的とし,アコヤガイ貝肉は約45日の処理でコンポスト化が可能である事を示している。研究全体が,明確な目的により具体的な出口を目指した内容であり,水産分野での実用的研究として高く評価される。
5. Fisheries Science 77巻1号:1-21 (2011) (総説)
Mechanisms and control of vitellogenesis in crustaceans
(甲殻類の生殖機構―卵黄形成過程の制御およびそのメカニズム―)
Thanumalaya Subramoniam(国立海洋技術研,インド)
[受賞理由] 本報は2011年のFisheries Science 77巻1号に掲載された総説である。甲殻類の卵黄形成について,卵黄タンパク質前駆体(Vg)遺伝子の単離,全一次構造の演繹,プロセシング機構の解析,遺伝子発現組織の同定,ならびに各卵黄形成期での遺伝子発現の変動や眼柄由来のペプチドホルモン,その他のホルモンによる生殖と脱皮の総合的な制御,脳や胸部神経節由来の生体アミン類の生理学的作用について述べたものである。本論文は過去6年間において,被引用件数が特に多く,論文賞授賞規程ならびに日本水産学会論文賞選考についての申合せ事項により,選定したものである。
平成27年度日本水産学会論文賞受賞論文
1. Fisheries Science 81巻1号:97-106 (2015)
Fukushima-derived radionuclides 134Cs and 137Cs in zooplankton and seawater samples collected off the Joban-Sanriku coast, in Sendai Bay, and in the Oyashio region
帰山秀樹,藤本 賢,安倍大介,重信裕弥,小埜恒夫(水研セ中央水研),田所和明,岡崎雄二,筧 茂穂,伊藤進一,成松庸二(水研セ東北水研),中田 薫,森田貴己(水研セ本部),渡邊朝生(水研セ中央水研)
[受賞理由] 本論文は,福島沿岸から親潮域において福島第一原発事故前後で海水と動物プランクトン中の放射性137Cs濃度を経時的に調査・比較し,動物プランクトンにおける137Cs濃度減少率が海水濃度に比べ低い原因が,動物プランクトンの濃縮に起因するとしている。この知見は,事故回復期における動物プランクトンの137Cs濃度変遷を予測する上で重要な知見であり,大震災以降の関連水域における水産生物の生産に深くかかわる食物網への影響を見る上で貴重な指針を与える点でも評価できる
2. Fisheries Science 81巻1号:187-192 (2015)
Important amino acid residues for the crab toxicity of PaTX, a type 3 sodium channel peptide toxin from the sea anemone Entacmaea actinostoloides
河野晃徳(海洋大),本間智寛(東海大短期),塩見一雄(海洋大)
[受賞理由] 本論文は,カニに対し毒性を示すイソギンチャク由来ペプチド毒,PaTXにつき,毒性の発現に関与する重要なアミノ酸を特定し,その活性発現機構を分子レベルで解明した。新たな知見を多く含んでおり,海洋生物由来天然毒の研究分野に大きく貢献する内容であり,日本水産学会論文賞にふさわしいものと思われる。
3. Fisheries Science 81巻5号:923-927 (2015)
Effectiveness of biological filter media derived from sea urchin skeletons
秋野雅樹,麻生真悟,木村 稔(道総研釧路水試)
[受賞理由] 本論文は,これまで廃棄されていたウニの外骨格を用いアルカリ処理したものが生物ろ過フィルター材として有効であることを電子顕微鏡観察,水槽実験等により証明し,優れた硝化力(アンモニアを酸化する能力)を持つことを示した。その機能がウニ殻の微細構造,pHの保持力とそれに伴う硝化菌の活性化に起因することを明らかにしたものである。ウニ殻のろ材への利用を検討した報告は初めてであり,今後事業化が期待できる成果である。
4. 日本水産学会誌 81巻1号:97-106 (2015)
魚醤油発酵時のヒスタミン蓄積に関わる原因菌の同定および乳酸菌発酵スターター接種によるヒスタミン蓄積抑制効果について
木村メイコ,舊谷亜由美,福井洋平(水研セ中央水研),柴田由起(ブレッシングフェバー株式会社),根井大介(食総研),矢野 豊(水研セ北水研),里見正隆(水研セ中央水研)
[受賞理由] 本論文は,イワシ魚醤中のヒスタミン産生菌を特定し,さらに乳酸菌発酵スターターを利用して当該種の増殖によるヒスタミン蓄積の抑制が可能であることを明らかにした。今後の水産食品の輸出拡大を考える時に,我が国の伝統的発酵食品における危害因子の抑制は重要な課題であり,今後,研究を促進していく必要のある分野と考えられる。本論文はその一端を担うものとして表彰に値すると考えられる。
5. 日本水産学会誌 81巻3号:447-455 (2015)
2011 年東北地方太平洋沖地震により発生した津波による岩手県沿岸内湾域の底質変化
内記公明(岩手水技セ,岩大院農),山田美和(岩大院農,岩大三陸),加賀新之助,渡邊志穂(岩手水技セ),神山孝史(水研セ東北水研),加戸隆介,緒方武比古,難波信由,林崎健一, 山田雄一郎(北里大海洋),山下哲郎(岩大院農,岩大三陸)
[受賞理由] 本論文は大震災前後で,岩手県沿岸9つの内湾における底質の含泥率,化学的酸素要求量,および酸揮発性硫化物の変化を調べ,地形や湾口防波堤の存在が震災後の湾内底質変化に影響を与えていることを解明したものである。津波の養殖漁場に及ぼす影響の評価につながる学術的知見を提供し,現場の漁業従事者や水産関係者にとっても有益な内容を包含しており,記録的価値も高い論文であると評価する。著者らが所属する各機関は,津波の直接被災者であり,震災関連調査が増えて多忙な中,今回原著論文として公表することで,水産分野では読者が多い本誌を通じて広く情報開示に努めている姿勢が伺える。
6. Fisheries Science 77 巻 4 号:623-632 (2011)
Identification and molecular typing of Streptococcus agalactiae isolated from pond-cultured tilapia in China
Xing Ye, Jiong Li, Maixin Lu, Guocheng Deng, Xiaoyan Jiang, Yuanyuan Tian, Yingchun Quan, Qian Jian(Pearl River Fish. Res. Inst., China)
[受賞理由] 本論文は2011年の Fisheries Science 77巻4号に掲載されたものである。その内容は,中国各地の養殖テラピアから分離された強毒性の菌株を Streptococcus agalactiae と同定し,molecular serotype Ia に属し,遺伝子型 ST-7 に分類したとするものである。この結果はテラピア group B Streptococcus の疫学と病因の理解および感染症防除法の開発に資するものと考えられる。また,本論文は過去6年間において,被引用件数が特に多く,論文賞授賞規程ならびに日本水産学会論文賞選考についての申合せ事項により,推薦するものである。
平成26年度日本水産学会論文賞受賞論文
1. Fisheries Science 80 巻 3 号:517-529 (2014)
Revisiting morphological identification of Japanese jack mackerel Trachurus japonicus eggs preserved in formalin
西山雅人(大分水研),斉藤真美(JANUS),真田康広,尾上静正(大分県農林水産部),髙須賀明典,大関芳沖(水研セ中央水研)
[受賞理由] 我が国の水産上極めて重要な位置を占めるマアジに関して,今まで困難であった卵期同定形質を明らかにした。加えてこれらの手法が実用可能かを飼育実験とDNA分析を用いて検証するとともに,ホルマリン固定標本においても査定できることを提示した。得られた成果は今後の本種の資源調査等に大きく貢献すると考える。
2. Fisheries Science 80 巻 3 号:543-554 (2014)
Demographic survey of the yellow-phase Japanese eel Anguilla japonica in Japan
横内一樹(長大海セ),金子泰通(日本水産資源保護協会),海部健三(東大院農),青山 潤(東大大気海洋研),内田和男(水研セ増養殖研),塚本勝巳(東大大気海洋研)
[受賞理由] 全国の12の河川・湖沼からニホンウナギを採集してその年齢と成長を調べることで,本種の性比が場所によって変異に富むことや水系によって2倍程度の成長速度の差異があることを示すなどの学術的に大きな成果を示すとともに,各水域での漁獲データも踏まえて本種資源の保全策に関して具体的な提言を行うなど,社会的にも意義深い論文である。
3. Fisheries Science 80 巻 5 号:933-942 (2014)
An efficient molecular technique for sexing tiger pufferfish (fugu) and the occurrence of sex reversal in a hatchery population
松永貴芳,家田梨櫻,細谷 将,黒柳美和(東大水実),鈴木重則(水研セ増養殖研),末武弘章(福井県大海洋生資),田角聡志,鈴木 譲(東大水実),宮台俊明(福井県大海洋生資),菊池 潔(東大水実)
[受賞理由] 本論文は,これまでの詳細な研究結果を基に,トラフグの遺伝的な性を迅速に判別する方法の開発について述べたものであり,また開発した手法を用いることで,飼育条件などの環境要因が本種の性決定に影響する可能性を示すなど生物学的にも興味深い現象も見出しており,産業的にも学術的にも価値の高い論文である。
4. Fisheries Science 80 巻 6 号:1337-1345 (2014)
Structural changes and imperfect competition in the supply chain of Japanese fisheries product markets
中島 亨(東大院農),松井隆宏(三重大院生資),阪井裕太郎(カルガリー大経),八木信行(東大院農)
[受賞理由] 本論文は,日本の水産物市場の構造変化を時系列分析で厳密に行ったものであり,計量経済学的な手法の水準の高さだけではなく,政策上重要な証明を行ったという点で社会に与えた影響が大きく,評価に値する。また,不完全競争下における計量経済分析という視点では,経済学分野の実証研究としても水準が高い。
5. 日本水産学会誌 80 巻 5 号:786-791 (2014)
鹿島房総沖における小型浮魚類(マイワシ,カタクチイワシ)の放射性セシウム濃度
高木香織,藤本 賢,渡邊朝生,帰山秀樹,重信裕弥,三木志津帆,小埜恒夫,森永健司(水研セ中央水研),中田 薫,森田貴己(水研セ本部)
[受賞理由] 本論文は,銚子沖で採取された浮魚(カタクチイワシおよびマイワシ)を用いて福島第一原発事故直後からの放射性セシウムの水産物汚染の変動を追跡したものであり,浮魚類における放射能汚染の変動を解析したものとして学術的価値が高く,またその成果は水産業に寄与するものであり,かつ社会の大きな関心に応えるものとして意義深い。
6. Fisheries Science 75 巻 2 号:387-392 (2009)
A new species of freshwater eel Anguilla luzonensis (Teleostei: Anguillidae) from Luzon Island of the Philippines
渡邊 俊,青山 潤,塚本勝巳(東大海洋研)
[受賞理由] 本論文は,フィリピン・ルソン島北部のカガヤン川上流で採集したウナギ属の新種 Anguilla luzonensis を記載したものであり,フィリピンに同所的に分布する A. celebesensis との形態形質の違いを明らかにしつつ,その遺伝や生態についても考察するなど,その後のウナギ属魚類の学術研究の発展に大きく貢献している重要な論文である。また,過去5年間の被引用件数が多く,本誌のインパクトファクター増加に貢献している。
平成25年度日本水産学会論文賞受賞論文
1. Fisheries Science 79 巻 1 号:33-38 (2013)
The ex vivo effects of eyestalk peptides on ovarian vitellogenin gene expression in the kuruma prawn Marsupenaeus japonicus
筒井直昭,長倉-中村 彩乃,永井千晶(東大院農),大平 剛(神奈川大理),Marcy N. Wilder(国際農研セ),長澤寛道(東大院農)
[受賞理由] クルマエビの眼柄内に存在するサイナス腺に含まれる複数のペプチドホルモンについて卵黄形成への関与を調べ,そのうちの数種類がビテロゲニン遺伝子の発現を抑制することを見出した本論文は,学術的に意義があるだけでなく,産業への応用も期待される点で高い価値を有する。論理展開や実験手法も高いレベルにあり,評価できる。
2. Fisheries Science 79 巻 3 号:407-416 (2013)
Video observation of an eel in the Anguilla japonica spawning area along the West Mariana Ridge
塚本勝巳(東大大気海洋研),望岡典隆(九大院農),Michael J. Miller(東大大気海洋研),小山純弘(JAMSTEC),渡邊 俊,青山 潤(東大大気海洋研)
[受賞理由] 西マリアナ海嶺でニホンウナギの産卵親魚の撮影を試みた報告であり,永年に渡って謎であったウナギ産卵場の決定的証拠につながり得るオスウナギらしき映像が撮影されており,貴重なデータである。また,ウナギ産卵場としてだけではなく,外洋のホットスポットとしての海山周辺の生物環境を報告している点も評価できる。
3. Fisheries Science 79 巻 4 号:559-568 (2013)
Effects of stratification and misspecification of covariates on species distribution models for abundance estimation from virtual line transect survey data
柴田泰宙(横浜国大),松石 隆(北大院水),村瀬弘人(水研セ国際水研),松岡耕二,袴田高志(日鯨研),北門利英(海洋大),松田裕之(横浜国大)
[受賞理由] 種の分布モデルを用いて生物の資源量を推定する際に,ライントランセクトの設定方法と共変量の選択が推定誤差に与える影響をシミュレーションにより評価した論文であり,正しく共変量選択をできないままに安易に層別化した調査領域設定を設定することへの危険性を提示した点は今後の資源調査や推定に有益な情報を与えるものとして高く評価できる。
4. Fisheries Science 79 巻 6 号:983-988 (2013)
Cesium-137 discharge into the freshwater fishery ground of grazing fish, ayu Plecoglossus altivelis after the March 2011 Fukushima nuclear accident
井口恵一朗(水研セ増養殖研),藤本 賢,帰山秀樹(水研セ中央水研),冨谷 敦,榎本昌弘(福島内水試),阿部信一郎(水研セ日水研),石田敏則(福島内水試)
[受賞理由] 原発事故により大きな漁業被害を受けている福島県において,周辺環境の空間線量が異なる3 河川のアユ等の魚類と底泥,藻類等の放射線(セシウム137)濃度を夏季と秋季に計測し,アユ体内に蓄積しているセシウム137が主に藻類の摂食による食物連鎖を通じた蓄積であること,ならびに比較的速やかに対外へ排出されること(半減期39日)を明らかにした。被害現場の研究者による貴重な研究成果であり,国際的,社会的に求められている情報として,価値が高い論文として推薦する。
5. 日本水産学会誌 79 巻 2 号:190-197 (2013)
アサリの非対称殻模様出現頻度における地域差
張 成年,山本敏博,渡辺一俊(水研セ増養殖研),藤浪祐一郎(水研セ東北水研),兼松正衛(水研セ瀬水研),長谷川夏樹(水研セ北水研),岡村 寛(水研セ中央水研),水田浩治(長崎県),宮脇 大(愛知水試),秦 安史,櫻井 泉(道中央水試),生嶋 登(熊本水研セ),北田修一(海洋大),谷本尚史(京都海洋セ),羽生和弘(三重水研),小林 豊,鳥羽光晴(千葉水総研セ)
[受賞理由] アサリの殻模様には非対称性が存在すること,またその形質に地域差が見られることに着目し,それを地域個体群の比較に応用した独創性の高い論文である。この非対象殻模様を用いた方法は,個体を生きたまま極めて簡便かつ経済的に判別する手法として,研究機関のみならず,初等・中等教育の分野にも利活用し得る調査手法を提供している上でも評価できる。
6. Fisheries Science 76 巻 1 号:93-99 (2010)
Effects of acidified seawater on early life stages of scleractinian corals (Genus Acropora)
諏訪僚太,中村雅子,守田昌哉(琉球大熱研セ), 島田和明(東大海洋研), 井口 亮,酒井一彦(琉球大熱研セ), 鈴木 淳(産総研地質情報)
[受賞理由] 本論文は,CO2 濃度を制御した水槽実験系を用い,高濃度 CO2 に対するミドリイシ属サンゴの初期生活史における耐性を調べたものであり,その結果が,将来,海洋酸性化がサンゴの一次ポリプの成長と共生成立を遅らせる可能性があることを示唆している点で興味深い。過去5年間の被引用件数が多く,本誌のインパクトファクター上昇に貢献している。
平成24年度日本水産学会論文賞受賞論文
1. Fisheries Science 78巻2号: 269-276 (2012)
School for learning: sharing and transmission of feeding information in jack mackerel Trachurus japonicus juveniles
高橋宏司,益田玲爾,山下 洋(京大フィールド研セ)
2. Fisheries Science 78巻2号: 327-335 (2012)
Pseudoalbinism and ambicoloration in hatchery-reared pleuronectids as malformations of asymmetrical formation
有瀧真人(水研セ西海水研),田川正朋(京大フィールド研セ)
3. Fisheries Science 78巻3号: 525-532 (2012)
Discovery of a spawning area of the common Japanese conger Conger myriaster along the Kyushu-Palau Ridge in the western North Pacific
黒木洋明(水研セ増養殖研),望岡典隆(九大院農),岡崎 誠,高橋正知(水研セ中央水研),Michael J. Miller,塚本勝巳(東大大気海洋研),安倍大介(水研セ中央水研),片山知史(東北大院農),張 成年(水研セ増養殖研)
4. Fisheries Science 78巻3号: 597-602 (2012)
Excretion of cesium and rubidium via the branchial potassium-transporting pathway in Mozambique tilapia
古川史也,渡邊壮一,金子豊二(東大院農)
5.日本水産学会誌 78巻3号: 421-428 (2012)
琵琶湖におけるニゴロブナ Carassius auratus grandoculis の種苗放流効果
藤原公一(滋賀水試,海洋大),松尾雅也(琵琶湖栽培漁業センター),臼杵崇広,根本守仁(滋賀水試),竹岡昇一郎,田中 満(琵琶湖栽培漁業センター),北田修一(海洋大)
6. 日本水産学会誌 78巻4号: 711-718 (2012)
本栖湖に密放流されたコクチバス Micropterus dolomieu の根絶
大浜秀規,岡崎 巧,青柳敏裕,加地弘一(山梨水技セ)
7. Fisheries Science 73巻1号: 123-131 (2007)
Supplemental effect of bile salts to soybean meal-based diet on growth and feed utilization of rainbow trout Oncorhynchus mykiss
山本剛史(水研セ養殖研),鈴木伸洋(東海大),古板博文,杉田 毅(水研セ養殖研),田中奈津美,後藤孝信(沼津高専)
平成23年度日本水産学会論文賞受賞論文
1. Fisheries Science 77巻1号: 95-106 (2011)
Effect of fish in rice-fish culture on the rice yield
鶴田哲也,山口元吉,阿部信一郎,井口恵一朗(水研セ中央水研)
2. Fisheries Science 77巻2号: 199-205 (2011)
First capture of post-spawning female of the Japanese eel Anguilla japonica at the southern West Mariana Ridge
黒木洋明,岡崎 誠(水研セ中央水研),望岡典隆(九大院農),神保忠雄(水研セ南伊豆栽培セ),橋本 博(水研セ志布志栽培セ),高橋正知(水研セ中央水研),田和篤史(九大院農),青山 潤,篠田 章,塚本勝巳(東大大気海洋研),田中秀樹,玄浩一郎,風藤行紀(水研セ養殖研),張 成年(水研セ中央水研)
3. Fisheries Science 77巻2号: 217-222 (2011)
Vortex flow produced by schooling behavior of arabesque greenling Pleurogrammus azonus
北川貴士(東大院新領域/大気海洋研),中川 隆((有)河童隊),木村龍治(放送大学),新野 宏(東大大気海洋研),木村伸吾(東大院新領域/大気海洋研)
4.Fisheries Science 77巻4号: 649-655 (2011)
Widespread distribution of cellulase and hemicellulase activities among aquatic invertebrates
新山貴俊,豊原治彦(京大院農)
5. 日本水産学会誌 77巻1号: 40-52 (2011)
八代海におけるラフィド藻 Chattonella antiqua の増殖および栄養塩との関係
紫加田知幸(熊本県大環境共生),櫻田清成(熊本水研セ),城本祐助(熊本県大環境共生),小山長久(熊本水研セ),生地 暢(熊本県大環境共生),吉田 誠(佐賀大有明海総研プロ),大和田紘一(熊本県大環境共生)
6. 日本水産学会誌 77巻6号: 1076-1082 (2011)
海藻炭による六価クロム汚染水の浄化
寺井章人(京大院農),豊原容子(華頂短大),佐藤敦政(アース株式会社),豊原治彦(京大院農)
7. Fisheries Science 72巻2号: 310-321 (2006)
Growth, stress tolerance and non-specific immune response of Japanese flounder Paralichthys olivaceus to probiotics in a closed recirculating system
田岡洋介(鹿大連農),前田広人(鹿大水),Jae-Yoon Jo, Min-Jee Jeon, Sungchul C. Bai, Won-Jae Lee(釜慶大),弓削寿哉(DSM),越塩俊介(鹿大水)
平成22年度日本水産学会論文賞受賞論文
1.Fisheries Science 76巻1号: 45-53 (2010)
Growth and maturation of Pacific saury Cololabis saira under laboratory conditions
中屋光裕,森岡泰三,福永恭平,村上直人,市川 卓(水研セ北水研),関谷幸生(水研セ本部),巣山 哲(水研セ東北水研)
2.Fisheries Science 76巻2号: 257-265 (2010)
Development of an in vitro culture system for producing eel larvae from immature ovarian follicles in Japanese eel Anguilla japonica
安部智貴,井尻成保,足立伸次,山内晧平(北大院水)
3.Fisheries Science 76巻2号: 315-324 (2010)
Effect of environmental factors, especially hypoxia and typhoons, on recruitment of the gazami crab Portunus trituberculatus in Osaka Bay, Japan
有山啓之(大阪環農水総研),David H. Secor (Univ. Maryland, USA)
4. Fisheries Science 76巻5号: 795-801 (2010)
Spawning induced by cubifrin in the Japanese common sea cucumber Apostichopus japonicus
藤原篤志,山野恵祐(水研セ養殖研),大野 薫(基生研生殖),吉国通庸(九大院農)
5. Fisheries Science 76巻5号: 827-831 (2010)
Faster growth before metamorphosis leads to a higher risk of pseudoalbinism in juveniles of the starry flounder Platichthys stellatus, as suggested by otolith back-calculation
西川泰造(京大院農),有瀧真人,清水大輔(水研セ宮古セ),和田敏裕(京大院農),田中 克,田川正朋(京大院農・京大フィールド研セ)
6. 日本水産学会誌 76巻2号: 169-184 (2010)
絶滅のおそれのある日本産淡水魚の生態的特性の解明
棗田孝晴(千葉科学大危機管理),鶴田哲也,井口恵一朗(水研セ中央水研)
7. Fisheries Science 75巻1号: 257-259 (2009)
Discovery of mature freshwater eels in the open ocean(Short paper)
張 成年,黒木洋明(水研セ中央水研),望岡典隆(九大院農),加治俊二(水研セ南伊豆セ),岡崎 誠(水研セ中央水研),塚本勝巳(東大大気海洋研)
平成21年度日本水産学会論文賞受賞論文
1.Fisheries Science 75巻1号: 121-128 (2009)
Neoheterobothrium hirame (Monogenea) alters the feeding behavior of juvenile olive flounder Paralichthys olivaceus
白樫 正(東大院農),西岡豊弘(水研セ養殖研),小川和夫(東大院農)
2. Fisheries Science 75巻2号: 273-283 (2009)
Bioeconomic assessment of size separators in Pacific saury fishery
小山田誠一(横国大),上野康弘(東北水研),牧野光琢(中央水研),小谷浩示(国際大),松田裕之(横国大環境情報)
3. Fisheries Science 75巻3号: 755-763 (2009)
Comparative study on general properties of alginate lyases from some marine gastropod mollusks
畑 舞美,熊谷裕也,Mohammad Matiur Rahman(北大院水),千葉 智(日水中央研),田中啓之,井上 晶,尾島孝男(北大院水)
4. Fisheries Science 75巻4号: 993-1000 (2009)
Artificially induced tetraploid masu salmon have the ability to form primordial germ cells
阪尾寿々,藤本貴史(北大院水),小林輝正,吉崎悟朗(海洋大),山羽悦郎(北大フィールド科セ),荒井克俊(北大院水)
5. Fisheries Science 75巻5号: 1147-1156 (2009)
Morphological changes in gill mitochondria-rich cells in cultured Japanese eel Anguilla japonica acclimated to a wide range of environmental salinity
徐 美暎・李 慶美・金子豊二(東大院農)
6. Fisheries Science 75巻5号: 1329-1336 (2009)
Use of an optical biosensor with a silicone-immobilized enzyme to determine plasma total cholesterol concentrations in fish
遠藤英明,郝 俊紅,舞田正志,林 哲仁,任 恵峰,日比香子(海洋大)
7. 日本水産学会誌 75巻5号: 828-833 (2009)
シオミズツボワムシ Brachionus plicatilis の親世代の餌料環境が次世代以降の生活史特性に与える影響
小磯雅彦(能登島栽漁セ),吉川雅代(長大院生産),桑田 博(日水研),萩原篤志(長大院生産)
8. Fisheries Science 70巻 5号: 765-771 (2004)
Cloning of kuruma prawn Marsupenaeus japonicus crustin-like peptide cDNA and analysis of its expression
Achara Rattanachai,廣野育生,大平 剛(海洋大),高橋幸則(水大校),青木 宙(海洋大)
平成20年度日本水産学会論文賞受賞論文
1.Fisheries Science 74巻1号: 8-18 (2008)
Transport and survival processes of eggs and larvae of jack mackerel Trachurus japonicus in the East China Sea.
笠井亮秀(京大院農),小松幸生(中央水研),佐々千由紀(西水研),小西芳信(SE Asian Fish. Devel. Cent. Malaysia)
2. Fisheries Science 74巻1号: 77-87 (2008)
Bioremediation of organically enriched sediment deposited below fish farms with artificially mass-cultured colonies of a deposit-feeding polychaete Capitella sp. I.
木下今日子,玉置紗矢香,吉岡美穂(熊本県大),Sarawut SRITHONGUTHAI(恵天),國弘忠生(熊本県大),濱 大吾(恵天),大和田紘一,堤 裕昭(熊本県大)
3. Fisheries Science 74巻2号: 276-284 (2008)
Jack mackerel Trachurus japonicus juveniles use jellyfish for predator avoidance and as a prey collector.
益田玲爾,山下 洋(京大フィールド研セ),松山倫也(九大院農)
4. Fisheries Science 74巻2号: 380-390 (2008)
Availability of genetically modified feed ingredient II: investigations of ingested foreign DNA in rainbow trout Oncorhynchus mykiss.
Pitchaya CHAINARK,佐藤秀一,廣野育生,青木 宙,延東 真(海洋大)
5. Fisheries Science 74巻4号: 781-786 (2008)
Underwater sound detection by cephalopod statocyst.
海部健三(海洋大),赤松友成(水研セ水工研),瀬川 進(海洋大)
6. Fisheries Science 74巻4号: 911-920 (2008)
Identification of angiotensin I-converting enzyme inhibitory peptides derived from salmon muscle and their antihypertensive effect.
江成宏之,高橋義宣,河原崎正貴,多田元比古(ニチロ中研),竜田邦明(早大院先進理工)
7. Fisheries Science 69巻6号: 1231-1239 (2003)
New approaches for the effective recovery of fish proteins and their physicochemical characteristics.
Young Sin KIM,Jae Won PARK (Oregon State Univ.),Yeung Joon CHOI(慶尚大)
8. 日水誌,74巻6号: 1052-1059 (2008)
マイクロサテライト DNA マーカーによる釣獲されたアユの由来判別と種苗放流効果の評価
久保田仁志,手塚 清,福冨則夫(栃木水試)
平成19年度日本水産学会論文賞受賞論文
1. Fisheries Science 第73巻3号: 675-683 (2007)
Cellulose digestion by common Japanese freshwater clam Corbicula japonica
坂本健太郎(京大院農),東畑 顕,山下倫明(中央水研),笠井亮秀,豊原治彦*(京大院農)
2. Fisheries Science 第73巻4号: 770-776 (2007)
New USB-based 3D digital echo sounder system for mapping and assessing fish and aquatic plants
韓 軍*,浅田 昭(東大生研),八木田康信(本多電子)
3. Fisheries Science 第73巻4号: 851-861 (2007)
Improvement of larval rearing technique for mass seed production of snow crab Chionoecetes opilio
小金隆之(水研セ小浜),團 重樹(水研セ西海水研石垣),浜崎活幸*(海洋大)
4. Fisheries Science 第73巻4号: 862-870 (2007)
Effects of mangrove deforestation on fish assemblage at Pak Phanang Bay, southern Thailand
新中達也,佐野光彦*(東大院農),池島 耕(Asian Inst. Tech.), Tongnunui Prasert (Rajamangala Univ. Tech. Srivijaya),堀之内正博(島根大汽水域研セ),黒倉 壽(東大院農)
5. Fisheries Science 第73巻5号: 989-994 (2007)
Genetic identification of Conger myriaster leptocephali in East China Sea
馬 涛*,Michael J. Miller,青山 潤,塚本勝巳(東大海洋研)
6. Fisheries Science 第73巻6号: 1241-1248 (2007)
Effects of water temperature on early development of Japanese eel Anguilla japonica
岡村明浩*,山田祥朗,堀江則之,宇藤朋子,三河直美,田中 悟(いらご研),塚本勝巳(いらご研、東大海洋研)
7. 日本水産学会誌 第73巻1号: 69-77 (2007)
マグネシウムイオンの鎮静作用を利用したヤリイカとスルメイカの活輸送,とくに輸送後の冷凍および冷蔵試料との品質の比較
舩津保浩*(酪農学園大),川崎賢一(近大農),臼井一茂,仲手川 恒(神奈川県環境農政部),清水俊治(諏訪東京理科大電子),阿部宏喜(東大院農)
8. 日本水産学会誌 第73巻2号: 210-219 (2007)
瀬戸内海東部海域におけるサワラの種苗放流効果
山崎英樹*(水研セ屋島セ),竹森弘征(香川水試),岩本明雄,奥村重信,藤本 宏,山本義久(水研セ屋島セ),小畑泰弘(水研セ玉野セ),草加耕司(岡山水試),北田修一(海洋大)
平成18年度日本水産学会論文賞受賞論文
1. Fisheries Science 72巻1号: 77-82 (2006)
Development and application of fluorescence in situ hybridization (FISH)method for simple and rapid identification of the toxic dinoflagellates Alexandrium tamarense and Alexandrium catenella in cultured and natural seawater
田辺(細井)祥子,左子芳彦(京大院農)
2. Fisheries Science 72巻1号: 105-114 (2006)
Food sources for the bivalve Corbicula japonica in the foremost fishing lakes estimated from stable isotope analysis
笠井亮秀,豊原治彦,中田晶子(京大院農),三浦常廣(島根内水試),東信行(弘前大農)
3. Fisheries Science 72巻1号: 149-156 (2006)
Thermal adaptation of Pacific bluefin tuna Thunnus orientalis to temperate waters
北川貴士,木村伸吾(東大海洋研),中田英昭(長大水),山田陽巳(水研セ遠洋水研)
4. Fisheries Science 72巻2号: 342-349 (2006)
Molecular attempt to identify prey organisms of lobster phyllosoma larvae
鈴木伸明(水研セ遠洋水研),村上恵祐(水研セ南伊豆セ),竹山春子(東京農工大),張 成年(水研セ中央水研)
5. Fisheries Science 72巻4号: 774-780 (2006)
Inbreeding depression traits in Pacific abalone Haliotis discus hannai by factorial mating experiments
朴 哲志(東北大院農),李 琪(中国海洋大),小林俊将(岩手水技セ),木島明博(東北大院農)
6. Fisheries Science 72巻4号: 846-854 (2006)
Role of small-scale fishing in Kompong Thom Province, Cambodia
堀 美菜(東大院農),石川智士(科学技術振興機構),Ponley Heng, Somony Thay, Vuthy Ly, Thuok Nao(カンボジア水産局),黒倉 寿(東大院農)
7. 日本水産学会誌 72巻4号: 725-733 (2006)
増殖ステージが異なるワムシを摂餌したヒラメ仔魚の発育と形態異常の出現
友田 努,小磯雅彦(水研セ能登島セ),陳 昭能,竹内俊郎(海洋大)
平成17年度日本水産学会論文賞受賞論文
1. Fisheries Science 71巻1号: 141-150 (2005)
Age estimation of the wild population of Japanese mantis shrimp Oratosquilla oratoria (Crustacea: Stomatopoda) in Tokyo Bay, Japan, using lipofuscin as an age marker
児玉圭太, 山川 卓(東大院農), 清水詢道(神奈川水総研), 青木一郎(東大院農)
2. Fisheries Science 71巻2号: 263-270 (2005)
A basic experiment of coral culture using sexual reproduction in the open sea
岡本峰雄(海洋大),野島 哲(九大),古島靖夫(JAMSTEC),William C. Phoel(URFI Inc.)
3.Fisheries Science 71巻2号: 314-319 (2005)
Comparison of behavioral responses to a novel environment between three teleosts, bluegill Lepomis macrochirus, crucian carp Carassius langsdorfii, and goldfish Carassius auratus
吉田将之,長峰麻妃子,植松一眞(広大院生物圏科)
4. Fisheries Science 71巻4号: 754-766 (2005)
Genetic difference between Ezo-awabi Haliotis discus hannai and Kuro-awabi H. discus discus populations: Microsatellite-based population analysis in Japanese abalone
原 素之(水研セ養殖研),関野正志(水研セ東北水研)
5. Fisheries Science 71巻5号: 992-1002 (2005)
Development of automatic system for monitoring fishing effort in conger-eel tube fishery using radio frequency identification and global positioning system
内田圭一(海洋研),荒井修亮,守屋和幸(京大院情報),宮本佳則,柿原利治,東海 正(海洋大)
6. Fisheries Science 71巻6号: 1295-1303 (2005)
Comparison of environmental conditions in two representative oyster farming areas: Hiroshima Bay, western Japan and Oginohama Bay (a branch of Ishinomaki Bay), northern Japan
神山孝史(水研セ東北水研),山内洋幸,岩井拓郎(宮城水開研セ),花輪正一(宮城内水試),松山幸彦,有馬郷司(水研セ瀬戸内水研),小谷祐一(水研セ中央水研)
7. 日本水産学会誌 71巻5号: 746-754 (2005)
大村湾産有害渦鞭毛藻 Heterocapsa circularisquama の二枚貝への影響と増殖特性
山砥稔文,坂口昌生,松田正彦,岩永俊介(長崎水試),岩滝光儀,松岡數充(長大海セ)
平成16年度日本水産学会論文賞受賞論文
1. Fisheries Science 70巻1号: 123-131 (2004)
Numerical investigation of the optimal control rule for decision-making in fisheries management
勝川俊雄(東大海洋研)
2. Fisheries Science 70巻3号: 456-462 (2004)
Mass preparation of marine silage from Undaria pinnatifida and its dietary effect for young pearl oysters
内田基晴(水研セ瀬戸内水研),故 沼口勝之,村田昌一(水研セ中央水研)
3. Fisheries Science 70巻4号: 620-628 (2004)
Isolation of microsatellite markers by in silico screening implicated for genetic linkage mapping in Japanese pufferfish Takifugu rubripes
古川聡史(東大院農),武島弘彦(東大海洋研),大高太郎,三星 亨,白須邦夫(日水大分海洋研),池田大介,金子 元(東大院農),西田 睦(東大海洋研),渡部終五(東大院農)
4. Fisheries Science 70巻4号: 629-637 (2004)
Sequence and polymerase chain reaction-restriction fragment length polymorphism analysis of the large subunit rRNA gene of bivalve: Simple and widely applicable technique for multiple species identification of bivalve larva
細井公富,田辺(細井)祥子,澤田英樹(京大院農),上野正博(京大フィールド研セ),豊原治彦,林 勇夫(京大院農)
5. Fisheries Science 70巻4号: 638-644 (2004)
Daily change of genetic variability in hatchery offspring of red sea bream during spawning season
Estu Nugrohoa,谷口順彦(東北大院農)
6. Fisheries Science 70巻4号: 645-649 (2004)
Transgenic medaka with brilliant fluorescence in skeletal muscle under normal light
木下政人(京大院農)
7. 日本水産学会誌 70巻5号: 728-737 (2004)
逸失底刺網のゴーストフィッシング能力の経時的変化と死亡数推定
仲島淑子,松岡達郎(鹿大水)
8. 日本水産学会誌 70巻6号: 910-921 (2004)
鹿児島湾におけるヒラメ人工種苗の放流効果
厚地 伸(鹿児島水試),増田育司(鹿大水)
平成15年度日本水産学会論文賞受賞論文
1. Fisheries Science 69巻1号: 3-10 (2003)
A new device for monitoring the activity of freely swimming flatfish, Japanese flounder Paralichthys olivaceus
河邊 玲,梨本勝昭,平石智徳(北大院水),内藤靖彦,佐藤克文(極地研)
2. Fisheries Science 69巻1号: 74-87 (2003)
Mechanism of biosynthesis of trimethylamine oxide in tilapia reared under seawater conditions
新関紀文(京大院農),大黒トシ子(梅花女大),平田 孝(京大院農),Ibrahaim ELShourbagy(タンタ大学),宋 興安,坂口守彦(京大院農)
3. Fisheries Science 69巻4号: 755-766 (2003)
Characteristics of the distribution of bacteria, heterotrophic nanoflagellates and ciliates in Hiroshima Bay in summer
神山孝史(東北水研),有馬郷司,辻野 睦(瀬戸内水研)
4. Fisheries Science 69巻5号: 903-909 (2003)
Effects of highly unsaturated fatty acids on escape ability from moon jellyfish Aurelia aurita in red sea bream Pagrus major larvae
中山慎之介(京大院農),益田玲爾(京大フィールド研セ),竹内俊郎(海洋大),田中 克(京大院農)
5. Fisheries Science 69巻6号: 1116-1120 (2003)
Henneguya lateolabracis sp. n. (Myxozoa: Myxosporea), the causative agent of cardiac henneguyosis in Chinese sea bass Lateolabrax sp.
横山 博(東大院農),川上秀昌(愛媛魚病セ),安田広志(宮崎水試),田中真二(三重科技セ)
6. Fisheries Science 69巻6号: 1135-1145 (2003)
Estrogenic activity in coastal areas around Japan evaluated by measuring male serum vitellogenins in Japanese common goby Acanthogobius flavimanus
大久保信幸(北水研),持田和彦(水研セ瀬戸内水研),足立伸次,原 彰彦(北大院水),堀田公明,中村幸雄(海生研),松原孝博(水研セ北水研)
7. 日本水産学会誌 69巻5号: 770-781 (2003)
東京湾海底におけるごみの組成・分布とその年代分析
栗山雄司,東海 正,田畠健治,兼廣春之(東水大)